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ブラックホールに吸い込まれる「降着円盤」撮影成功 国立天文台など

2023.05.12

 宇宙のブラックホールに吸い込まれるガスでできた「降着円盤」の撮影に、国立天文台などの国際研究グループが初めて成功した。4年前に初撮影したブラックホールを取り囲むもの。高速で噴き出すガス「ジェット」も同時に撮影しており、ブラックホールの詳しい仕組みなどを理解する手がかりになるという。

電波観測で撮影した、M87銀河の中心の巨大ブラックホール周辺。中央の降着円盤に加え、右側へ噴き出すジェットも捉えた(路如森氏ら提供)
電波観測で撮影した、M87銀河の中心の巨大ブラックホール周辺。中央の降着円盤に加え、右側へ噴き出すジェットも捉えた(路如森氏ら提供)

 研究グループは2019年、世界の電波望遠鏡の観測網「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」を使い、地球から5500万光年離れた「M87銀河」中心部の巨大ブラックホールの影と、重力で光がねじ曲げられて見えるドーナツ状の周縁部「光子リング」を初めて撮影したと発表。ブラックホールの存在や、銀河中心の巨大ブラックホールの存在の証拠を示した。ただ視野などの制約のため、光子リングの周囲にあると考えられる降着円盤など、周辺は捉えられなかった。

 そこで研究グループは、EHTとは別の観測網「グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)」を使い2018年4月、同じブラックホールの周辺構造の撮影に挑んだ。GMVAは波長3.5ミリ帯で観測する。1.3ミリ帯のEHTに比べ視力は半分だが、より広い視野と高い感度を持つ。新たに南米チリのアルマ望遠鏡とグリーンランド望遠鏡が加わったことで、観測性能が上がったという。

 その結果、光子リングの外側で、ブラックホールの強い重力により回転しながら落ち込んでいく高温のガスでできた降着円盤の撮影に初めて成功。また、これまでEHT以外の観測では捉えていたジェットを、降着円盤と同時に収めることができた。

(左)GMVAで今回撮影したM87中心部の降着円盤(路如森氏ら提供)、(右)EHTで撮影し2019年に公開した光子リング(EHTコラボレーション提供)。一見、似ているが大きさが異なる
(左)GMVAで今回撮影したM87中心部の降着円盤(路如森氏ら提供)、(右)EHTで撮影し2019年に公開した光子リング(EHTコラボレーション提供)。一見、似ているが大きさが異なる

 研究グループの東京大学宇宙線研究所の川島朋尚特任研究員は会見で「ジェットの形成や加速の仕組みには謎が多い。降着円盤が作る磁場がどんどん増幅し、付近に溜まることでジェットが噴出すると考えられている。降着円盤が見つかったことで、磁場の運ばれ方などの理解につながる。またジェットは円盤風という流れに取り囲まれ、形が細く絞られている。さらなる理論と観測により、こうした仕組みの理解が進むだろう」と説明した。

 東京エレクトロンテクノロジーソリューションズの田崎文得シニアスペシャリストは「降着円盤はブラックホールの成長を知る上でも重要。ガスが渦を巻きながら吸い込まれていくが、それが今のところ、ブラックホール成長の唯一の“餌”とされる。ブラックホールは銀河の成長とも関係があるといわれる。こうした現場を捉えたことは大きな成果だ」とした。

 ブラックホールは極めて強い重力を持つ超高密度の天体。一般相対性理論で、周囲の時空がゆがみ、光さえ脱出できないとされる。重い恒星が一生の終わりに大爆発を起こし収縮してできる。また、多くの銀河の中心には巨大ブラックホールがあるが、その形成の詳しい仕組みは分かっていない。

 研究グループは国立天文台、大阪公立大学、工学院大学、総合研究大学院大学、東京大学宇宙線研究所、新潟大学、八戸工業高等専門学校、中国科学院上海天文台、台湾中央研究院天文及天文物理研究所、独マックスプランク電波天文学研究所、韓国天文研究院、米国立電波天文台、マサチューセッツ工科大学など、16の国と地域の65機関で構成。成果は英科学誌「ネイチャー」に4月26日に掲載された。

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