二酸化炭素(CO2)と水素を原料とし、室温でメタノール合成を促す触媒を、東京工業大学の北野政明教授(触媒化学)と細野秀雄栄誉教授(材料科学)らのグループが開発した。新触媒はパラジウム(Pd)とモリブデン(Mo)からなる金属間化合物。簡単に作れて耐久性も高いと見込まれることから、実用化の可能性があるという。
メタノールはプラスチックなどの原料や燃料として需要が高い。現在は主に天然ガスを原料に量産されているが、CO2と水素からつくることもできる。2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを実現にするという政府目標に向け、温室効果ガスであるCO2を有用なメタノールにする研究が近年は盛んになっている。
研究グループはレアメタルのパラジウムとモリブデンに注目。両元素の酸化物を混ぜてアンモニア中で数百度の温度で焼き、黒っぽい金属の粉末を得た。透過型電子顕微鏡で観察すると、パラジウムとモリブデンの層が交互に積み重なった六方最密構造(hcp)をしていた。
この金属間化合物を使って常圧(約1気圧)でメタノールを合成したところ、60℃以上で反応が進んだ。25℃の室温では、0.9メガパスカル(約9気圧)の圧力下で50時間、断続的なメタノール合成を確認した。
分光測定により、CO2が還元されてできたと見られる一酸化炭素(CO)がモリブデンにくっついていることを確認した。モリブデンによってCOが活性化する一方で水素がパラジウムで活性化し、メタノール合成が進むと考えられる。
現在、工業的にメタノールをつくる時には、天然ガスを部分酸化してCOをつくり、亜鉛銅触媒のもと、水素と200~300℃の高温下で反応させる。2021年には産業技術総合研究所がイリジウム錯体触媒を開発して30℃でCO2と水素からメタノール合成ができたと発表しているが、触媒の耐久性などに詰めるべき課題がある。今回のパラジウム・モリブデン触媒は耐久性に関して、メタノール合成中に生じる水によって性能が劣化することはなかったという。
今回の触媒はメタノールを合成するが、COも生じる。基本的に、60℃以下の低温条件ではほぼ100%メタノールができる一方、反応温度が高くなるにつれてCOが生じ、180℃では、COが約95%になった。メタノール合成を目的にすると、COができない方が望ましいが、一般的に300~400℃以上でないと効率よく反応が進まないCO2からCOの生成が低温でできることも成果の一つとなる。
細野教授によると、論文発表するにあたり査読者の中には、メタノール合成における触媒作用よりも、メタノール合成時に条件によってCOができることに驚いていた人もいたという。「プロの研究者からはCO2をCOに還元する触媒作用を成果として注目されているかもしれない。COも需要があり、室温で反応が進む触媒というのはマイルストーン的な意味合いがある」と話す。
北野教授も「メタノールだけでなくCOも生み出す触媒。パラジウムやモリブデンが最初にCO2の酸素を切り離して、その後に水素化によりメタノールをつくるのか、水素がCO2にいきなり結合して、OHとCOが分かれてからメタノールができるのか、触媒上で起きていることも調べたい」と今後の抱負を述べた。
今回の研究は、科学技術振興機構の創発的研究支援事業の支援によって実施し、3月30日付の米化学会誌オンライン版に掲載された。
関連リンク
- 東京工業大学プレスリリース「室温で二酸化炭素をメタノールへ変換できる触媒を創製」