宇宙生活を地上で模擬する精神ストレスの研究で捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正が多数あった問題で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は実施責任者の古川聡飛行士を戒告の懲戒処分とするなど、関係者を処分したと発表した。12日に東京都内で会見した古川氏は「不適切な研究とマネジメントにより国民の信頼を損ねた。責任を痛感しており、心より深くお詫び申し上げる」と述べた。JAXA飛行士の処分は初。古川氏は来年度に国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在の予定で、変更はないという。
処分は10日付。ほかに山川宏理事長と鈴木和弘副理事長を厳重注意、佐々木宏理事(有人宇宙技術部門担当)を訓告としたほか、関係する職員を処分した。
古川氏は会見で「私は業務で『トラスト・バット・ベリファイ』を目指している。仲間を信頼するが、念のため確認せよという意味だ。本件ではこのベリファイが不十分で、専門家に任せる信頼の気持ちが勝ってしまった。役割分担するにしても、しっかりしたプロセスで実施しているかを確認すべきだった」、「限られた人員と厳しいスケジュールの中でいかに研究を進めるか、必死になってしまった。マネジメントに適切に実情を伝えて調整すべきだった。研究開始時点から多くの方に指摘を頂いており、真摯に受け止めるべきだった」などと振り返った。
血液試料の取り違えでは、古川氏が問題を覚知後、倫理審査委員会に連絡するまでに約1カ月が経過した。これについて「原因解明を優先すべきだと考えたが、おかしなデータが出た段階ですぐ報告すべきだった」と説明。自身の来年度のISS長期滞在については「自分自身の倫理規範も向上させて対策を講じ、与えられた任務をしっかり行い、信頼回復に努めたい」と繰り返し、変更がないことを強調した。会見は、直接説明したいとの古川氏の希望で開いたという。
問題があったのは、JAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)にある閉鎖施設で2016~17年に5回行った実験。将来の火星探査など数年に及ぶ有人飛行を念頭に各回、8人が2週間滞在し、生理データの測定や面談による心理診断を行う計画だった。ところが調査すると診断結果の捏造、面談結果の改ざん、計算ミス、データの鉛筆書き、研究ノートがほとんど作られないなど、多数の問題が判明。JAXAが昨年11月25日に発表した。問題が生じた内容は、学術目的の発表はしていないという。
理化学研究所が発表したSTAP細胞論文の問題が明るみになり、科学研究の不正が大きな社会問題となったのが2014年。そのわずか2~3年後に今回の不正が行われた。会見での「他山の石にできなかったか」の質問に、佐々木氏は「JAXAがしっかり認識し、ルールを作ったことは間違いない。一方、研究者一人一人が理解すべきだったが、末端まで伝わっていなかった。教育、指導を働きかけねばならなかった」と答えた。
有人宇宙技術部門の小川志保事業推進部長は「JAXAとして、人の安全を守るという医学研究の理解度、練度が本当に低かったのでは。STAP問題があった時、(研究者は)自分のこととして納得しなければならなかったが、果たして医学研究ではどうだったか。深堀りして確認していなかったからこそ、この状態になった。今こそ振り返り、是正すべきだ」とした。
関連リンク
- JAXAプレスリリース「『人を対象とする医学系研究に関する倫理指針』不適合に関する役員の処分について」
- JAXAプレスリリース「『人を対象とする医学系研究に関する倫理指針』不適合事案について」
- 文部科学省 科学研究費補助金 2015~19年度「宇宙に生きる『A02-5 無重力・閉鎖ストレスの統合的理解』」
- JAXA「宇宙飛行士の精神心理健康状態評価手法の高度化を目指す有人閉鎖環境滞在研究の実施について」
- 文部科学省「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(2014年制定の旧指針)
- 文部科学省「研究活動における不正行為への対応等」