厚生労働省に新型コロナウイルス感染症対策を助言する専門家組織の脇田隆字座長(国立感染症研究所長)ら専門家チームは、新型コロナと季節性インフルエンザは明らかに違う特徴をもった感染症で、同じような感染症になるまで相当な時間を要する、などとする見解をまとめた。
現在、新型コロナを感染症法上で危険度が2番目に高い「2類」からインフルエンザと同じ「5類」へ引き下げることの是非について、政府と専門家らの議論が本格化している。この見解は2つのウイルス感染症の感染力などを最新の知見を基に評価して出されただけに、今後の議論や検討作業に影響する可能性がある。
この見解は「新型コロナウイルス感染症の特徴と中・長期的リスクの考え方」と題し、脇田氏と押谷仁・東北大学大学院医学系教授、鈴木基・国立感染症研究所感染症疫学センター長、西浦博・京都大学大学院医学系教授の4人がまとめた。16ページにわたり、新型コロナウイルスの伝搬性(感染力)や重症度、社会機能へのインパクトなどをインフルエンザと比較しながら分析している。
新型コロナウイルスは従来株が次々と変異し、感染拡大の「第7波」を起こしたオミクロン株は従来株と比べて重症度や致死率が下がった。このため「インフルエンザと同じようなものだ」との見方も出ていた。見解はこれに対し「(2つの感染症は)疫学、病態など多くの点で大きな違いが存在し、新型コロナのリスクをデータや最新の知見に基づいて評価する必要がある」とクギを刺した。
その上で「世界保健機関(WHO)は感染症のパンデミックの評価には感染力、疾患としての重症度のほか、医療や社会へのインパクトを分析することを求めているが、国内では致死率と重症化率だけで比較される場合が多く、リスク評価として不十分」と指摘。伝搬性について「当初からインフルエンザより高かったが、変異株の出現とともにさらに増大しており、インフルエンザとは大きく異なる感染症に変化している」と強調した。
また、「ワクチンや感染により獲得した免疫も減弱し、変異株は免疫逃避の程度も高く、疫学的にはインフルエンザとは異なる特徴を持つ感染症になっている」と明記した。このほか、循環器疾患をはじめとする合併症や罹患後症状(後遺症)のリスクも考慮する必要がある、などとしている。
そして「新型コロナのパンデミックもどこかの時点で季節性インフルエンザと同じような特徴を持った感染症になるとしても相当な時間を要すると考えられる」と結論付けている。
2つの感染症を「同等」と判断するためには「毎年流行しても感染者数と死者数が一定範囲に収まる」「流行期間は限定的でその時期を予測できる」「流行時期には医療の負荷は増えても一般医療を制限するようなひっ迫は起きない」といった条件を満たす必要があるという。
政府は感染症法上の類型を見直す議論の科学的根拠を得るために脇田氏ら4人に新型コロナの感染力や重症度、今後の変異の可能性の3つの要素について評価し、見解をまとめるよう要請していた。
この見解は14日に開かれた専門家組織の会合に提出された。座長の脇田氏は会合終了後の記者会見で「新型コロナウイルス感染症はインフルエンザとは相当違う疾患だ。感染力が強いのでかなりの感染者が出る」「新型コロナの特徴にあった対策が必要だ」などと述べ、今後も変異株の特徴を見極めながら医療提供体制や感染拡大防止対策を検討する重要性を強調している。