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スパコンとAI活用し気候変動の農作物影響を解析 農研機構が「人工気象室」を開発

2022.09.06

 気温など、気候変動に伴うさまざま環境の変化が農作物に与える影響を再現、解析することができる「ロボティクス人工気象室」を農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発し、2日公開した。国内外で気候変動の影響は既に顕在化しているとされ、現在影響をいかに少なくするかという「適応策」が焦点になっている。開発した人工気象室は人工知能(AI)やスーパーコンピューター(スパコン)といった最先端技術を活用しているのが特徴。農研機構は気候変動に強い新たな品種や栽培方法の開発につなげたいとしている。

ロボティクス人工気象室を活用するシステム全体の概念図(農研機構提供)
ロボティクス人工気象室を活用するシステム全体の概念図(農研機構提供)

 このロボティクス人工気象室は、「栽培環境エミュレータ」と呼ばれる人工気象室本体と、作物の大きさや色などの形質情報を収集できる「ロボット計測装置」で構成される。

 農研機構によると、エミュレートとは作物を栽培する野外環境を人工的に模擬すること。人工気象室本体は縦横とも約1.7メートル、高さ約1.9メートル。上部に高出力のLEDを設置している。LEDライトで光や紫外線量を調節し、温度はセ氏5~35度、湿度も最大90%まで上げることが可能。さらに、気候変動をもたらす一方で作物の成長を促す二酸化炭素(CO2)濃度を高めることもできるという。

 またロボット計測装置は、複数のカメラを作物に平行に移動させて撮影し、作物の形質情報を自動収集できる。遠隔操作でデータ取得や環境条件などが設定できるほか、観察のためにドアを開閉する必要がないために栽培環境を乱さずに頻繁に、かつ効率的な形質測定が可能という。

ロボティクス人工気象室のロボット計測装置(農研機構提供)
ロボティクス人工気象室のロボット計測装置(農研機構提供)

 この装置で取得したデータは高速ネットワークを通じて農研機構が保有するスパコン「紫峰」に転送される。こうして得られたデータをAIがさまざまな気候変動による生育環境の変化が及ぼす熟成度や成長過程への影響を解析する仕組みだ。農研機構が蓄積する病害虫や気象、遺伝資源、各種ゲノム情報などのデータベースと照合する複合的な解析もできるという。

 ロボティクス人工気象室は外部からの遠隔操作による利用も可能で、民間企業や大学などの研究機関との共同研究の基盤に活用できる。農研機構は、環境変化に迅速、効果的に適応するための品種や栽培方法の開発だけでなく、作物による大気中のCO2吸収、固定や、メタンなどの温室効果ガス発生の抑制といった気候変動緩和策の研究にも利用できるとしている。

ロボティクス人工気象室を構成する栽培環境エミュレータとロボット計測装置の特徴(農研機構提供)
ロボティクス人工気象室を構成する栽培環境エミュレータとロボット計測装置の特徴(農研機構提供)

 政府は気候変動の影響が既に顕在化し、今後さらに深刻化する恐れがあるとして農作物への影響や被害を抑えることなどを目的とした「気候変動適応法案」を2018年2月に閣議決定。同年6月に「気候変動適応法」が成立した。同法は「適応の総合的推進」や「情報基盤の整備」などを関係省庁や地方自治体のほか関係研究機関にも求めている。農産物については既にコメの白濁化やりんごの着色不良、温州みかんの浮皮といった具体的な影響が指摘されている。

 国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第2作業部会は今年2月、世界人口の4割以上の約33~36億人が気候変動に適応できずに既に被害を受けやすい状況にあるとする「影響・適応・脆弱性」報告書を公表した。この中で地域の特性に応じた適応策を急ぐ必要があると強調している。

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