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糖尿病による腎臓疾患を悪化させるたんぱく質を発見 リスク評価や治療に道、日大

2022.08.18

 糖尿病患者の大規模調査と細胞実験などから、人工透析治療などが必要となる末期腎不全の発症に、たんぱく質「NBL1」が関わっていることを発見した、と日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科の小林洋輝助教らの研究グループが発表した。糖尿病患者が末期腎不全になるリスクを評価するための指標や、NBL1を標的とした治療法の開発につながる成果という。

研究の概念図。たんぱく質「NBL1」が細胞死(アポトーシス)を誘導し、組織の線維化などを引き起こすことで、糖尿病性腎症を悪化させると考えられる(小林助教らの研究グループ提供)
研究の概念図。たんぱく質「NBL1」が細胞死(アポトーシス)を誘導し、組織の線維化などを引き起こすことで、糖尿病性腎症を悪化させると考えられる(小林助教らの研究グループ提供)

 糖尿病の合併症である糖尿病性腎症は、高血糖に伴って腎臓が破壊され徐々に機能が失われていく疾患。進行すると末期腎不全へと移行し、人工透析や臓器移植などの治療が余儀なくされる。日本の人工透析医療費は年間1兆5700億円(2015年厚労省推計)に上り、原因疾患の40%以上を糖尿病性腎症が占めるため、病態解明や治療法の開発は社会的な課題にもなっている。しかしこれまで、末期腎不全への移行リスクを評価する指標や、悪化に関与するたんぱく質の存在は明らかにされていなかった。

 小林助教と米ハーバード大学医学校ジョスリン糖尿病センターのアンジャイ・クロレフスキ教授らの研究グループは、同センターに通院する糖尿病患者と、遺伝的な性質から2型糖尿病発症率が高いことで知られる米アリゾナ州のピマインディアンの糖尿病患者の計754人から採取された血液検体を使い大規模解析を実施した。

 研究グループは、臓器障害に伴って現れる組織の「線維化」の原因となる「TGF-βシグナル」に関連するたんぱく質を血液検体から測定し、その上で血液採取時点から10年間の患者たちの末期腎不全の発症率を解析した。この結果、10年以内に末期腎不全を発症した患者では、発症しなかった患者と比較して、血液中のNBL1が高値であることが分かった。

血液中のNBL1が高値の患者ほど、10年以内の末期腎不全の発症率が高かった(小林助教らの研究グループ提供)
血液中のNBL1が高値の患者ほど、10年以内の末期腎不全の発症率が高かった(小林助教らの研究グループ提供)

 また、糖尿病患者の血液中のNBL1濃度と腎組織障害の程度を調べたところ、尿のろ過に重要な役割を持つ「ポドサイト」の障害や、腎線維化と強い相関関係がみられた。さらに細胞実験では、ポドサイトなどの腎組織にNBL1を添加することで細胞死(アポトーシス)が誘導されることが分かった。NBL1自体が糖尿病性腎症を悪化させる原因となることが示唆される結果で、これまで知られていなかったNBL1と腎臓疾患との関わりが明らかになった。

 小林助教は「糖尿病患者の腎不全リスクを調べるマーカーや、NBL1を標的とした治療薬の開発につながると期待している。今後は、NBL1が糖尿病に伴う腎臓以外の臓器障害にも関与しているかについて調べていきたい」と話している。

 論文は米国科学振興協会の医学誌「サイエンストランスレーショナルメディシン」に8月10日(日本時間11日)に掲載された。

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