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WHO緊急事態宣言下のサル痘、国内初確認 欧州渡航歴ある都内30代男性

2022.07.26

 厚生労働省と東京都は25日夜、欧米を中心に患者が増えているウイルス感染症「サル痘」の患者が国内で初めて確認されたと発表した。この患者は都内在住の30代男性で、欧州への渡航歴があった。世界保健機構(WHO)は23日、サル痘について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言していた。政府は厚労省を中心に国内における拡大の阻止に全力を挙げるとともに、予防効果があるとされる天然痘ワクチンの接種体制を整備する。同省の担当者は「感染力は新型コロナウイルスほど強くない。詳しい感染経路は不明だが、ある程度限られる」などとして冷静な対応を求めている。

サル痘ウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)
サル痘ウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

 厚労省と東京都の発表によると、感染が確認された男性は6月下旬~7月中旬にかけて欧州に滞在。帰国後に倦怠(けんたい)感を感じて25日に都内の医療機関を受診した。検体を調べた都の健康安全研究センターが同日夜、サル痘ウイルス陽性と判定した。渡航先でサル痘と診断された人と接触歴があった。同日夜現在、発熱や発疹、頭痛、倦怠感の症状があり、都内の医療機関に入院中だが症状は安定しているという。

 政府はWHOが緊急事態宣言を出したことを受け、患者が国内初確認される前の25日午前、関係省庁会議を開いて情報収集や検査体制を整備することなどを決めた。磯崎仁彦官房副長官は会議後の記者会見で「国際機関と連携しながら発生国の罹患や対応の状況などを情報収集し、国民には的確に情報提供し、出入国者に確実に注意喚起する。また国内で感染が疑われる患者が発生した場合に備え、検査体制や患者受け入れ体制などの準備を確実に進める」と述べていた。

25日午前の記者会見でサル痘に対する国内対策などを説明する磯崎仁彦官房副長官(内閣広報室提供)
25日午前の記者会見でサル痘に対する国内対策などを説明する磯崎仁彦官房副長官(内閣広報室提供)

 日本はバイオテロ対策などの目的で一定量の天然痘ワクチンを備蓄している。厚労省によると、同省の専門部会が29日、天然痘ワクチンを感染予防に使うことの可否を審議するという。

 WHOは23日、サル痘の確認患者数は75カ国・地域で1万6000人を超え、確認された死者は5人になったと発表。感染は世界で急速に拡大しており、患者がまだ見つかっていない国でも監視体制を強める必要があるとして、テドロス事務局長が緊急事態を宣言した。

 WHOの緊急事態宣言の制度は2002~03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)への対応が遅れた反省から05年に創設された。20年1月30日に新型コロナウイルス感染症に対して出して以来。14年に宣言が出たポリオ(小児まひ)と新型コロナに対しては現在も継続中だ。

 WHOなどによると、サル痘は主にアフリカ西部や中部の熱帯雨林地帯で発生する動物由来のウイルス感染症で、アフリカ中西部で流行していたが、5月以降、欧米を中心に中東やアジア太平洋地域でも感染が急拡大した。

 ネズミやリスの仲間がウイルスを保有し、サルやヒトにも感染する。潜伏期間は5~21日、発疹、発熱や体の痛みといった症状が出始め、顔や手足にぶつぶつとした膨らみができ、かさぶたになる。1958年に実験動物のサルから見つかったことからサル痘の名前が付いた。

 新型コロナウイルスのような感染力はないとみられるが、近距離での対面で飛沫(ひまつ)を浴びたり、体液や症状の出た皮膚に触れたりすると感染するほか、汚染された寝具や衣服を介しても感染する可能性があるとされる。感染経路としては男性同士の性的接触が多いとされるが、詳しいことは分かっていない。

 多くの場合、2~4週間で治るが、子どもや免疫力が低下した人は重症になる。致死率ははっきりしていないが、WHOは3~6%程度と推定している。決定的な治療薬はまだなく、対症療法が中心。予防には天然痘ワクチンが有効とされる。海外では抗ウイルス薬も承認されている。

手に現れたサル痘の特有の症状(WHO提供)
手に現れたサル痘の特有の症状(WHO提供)

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