歯茎の骨に微小な穴を開けると歯の移動が速まるのは、炎症誘発物質の一種が間接的に働き、骨を吸収する「破骨細胞」が増えるためであることが分かった、と東北大学の研究グループが発表した。矯正歯科治療の期間短縮につながる成果という。
矯正歯科治療は数年といった長期間がかかり、矯正器具の改良などにより短縮が図られてきた。このほか歯茎の骨に微小な穴を開け、治癒作用により歯の移動を加速する可能性が指摘されてきたが、裏付けを欠いていた。また、生理活性物質「サイトカイン」の一種で炎症を誘発する「TNFアルファ」が破骨細胞を増やし、歯の移動を促すことが知られてきた。ただ、その具体的な仕組みは未解明だった。
そこで研究グループはこれらの解明に挑戦した。まず、マウスの上顎の大臼歯(奥歯)の歯茎の骨の2カ所に直径0.5ミリの工具で微小な穴を開けた。この大臼歯から切歯(前歯)にかけて矯正器具を装着し、12日かけて大臼歯を移動させた。その結果、歯茎の骨に穴を開けたマウスは開けないものに比べ、歯の移動が速まっていた。TNFアルファが増え、それが破骨細胞を増やして歯の移動が促されることも分かった。
さらに、TNFアルファが破骨細胞を増やす仕組みの解明を試みた。考えられる仕組みは(1)白血球の一種「マクロファージ」に直接働いて破骨細胞が作られる、または(2)間質系細胞に働き、サイトカインの一種の「RANKL(ランクル)」が出ることで間接的に破骨細胞が作られる――の2通りという。実験の結果、間質系細胞にTNF受容体の遺伝子を持たないマウスでは、歯が移動しなかった。このことから、TNFアルファが(2)の仕組みで歯の移動を促すことを突き止めた。
こうした結果から、 歯茎の骨に微小な穴を開けると歯の移動が促されることと、その仕組みが裏付けられた。矯正歯科治療の期間短縮につながる可能性があるという。
研究グループの東北大学大学院歯学研究科の北浦英樹准教授(矯正歯科学)は「歯に微小な穴を開ける方法以外にも、TNFアルファを増やすさまざまな方法を見いだせば、歯の移動を促進できるだろう。今回の成果により、その道が科学的に開けた」と述べている。
成果は分子科学の国際専門誌「インターナショナル・ジャーナル・オブ・モレキュラー・サイエンシズ」に3月10日に掲載され、東北大学が23日に発表した。
関連リンク
- 東北大学プレスリリース「歯の移動を促進させる加速矯正治療のメカニズムを解明」