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不利な進化はどうして? 光合成をやめる途中段階の藻類を発見 国環研

2022.02.14

 光合成をやめる進化の途中の藻類を初めて発見した、と国立環境研究所の研究グループが発表した。葉緑体のゲノム(全遺伝情報)を調べたところ、光合成をつかさどる遺伝子を持つゲノムと、そのDNA配列の一部が変化したゲノムが混在していた。ラン科植物やマラリア原虫の一部も、光合成をやめて独立栄養から従属栄養に進化したことが知られている。なぜ、自分で有機物を作れなくなるという不利な進化をしたのか。こうした進化の過程の理解につながる成果という。

光合成をやめる進化の途中にあることが分かった藻類「クリプトモナス・ボーレアリス」(国立環境研究所提供)

 藻類は基本的に、光合成をして自分で有機物を作る独立栄養生物だ。しかし中には光合成をやめ、他の生物が作った有機物を取り入れて暮らす従属栄養生物となった種がある。これらが光合成の能力をどのように失ったかは大きな謎だ。

 そこで研究グループは、同研究所の微生物系統保存施設にある藻類のうち、光合成をする種とやめた種を近縁に持つ「クリプト藻」の一部の葉緑体ゲノムを解読し比較した。その結果、光合成をする種でありながら、葉緑体ゲノムの構造が他の種と大きく違っている種を見つけた。このうち「クリプトモナス・ボーレアリス」は光だけで培養でき、また光がなくても有機物を吸収する従属栄養でも増殖することが、観察により分かった。

 またこの種の葉緑体ゲノムのDNA配列は、光合成をやめた種に近いことが判明。光合成を維持しつつ従属栄養の性質を持つ、光合成の能力を失う直前の藻類であることが分かった。

クリプト藻の進化における光合成能力の消失。中央のクリプトモナス・ボーレアリスは中間段階にある。右端の「クリプトモナス・パラメシウム」は葉緑体を失い、色が異なる(国立環境研究所提供)

 続いて研究グループは(1)光合成の能力を持つクリプト藻、(2)能力を失う直前であるクリプトモナス・ボーレアリス、(3)能力を持たないクリプト藻のそれぞれについて、葉緑体ゲノムを詳しく観察し、光合成の能力を失う過程の推定を試みた。

 藻類など真核生物の遺伝子は「イントロン」という領域を含んでいる。DNAはそのままではmRNA(メッセンジャーRNA)に転写されず、途中の段階で不要なイントロンが除かれ、必要な領域どうしを結合する反応が起こっている。

 クリプト藻の仲間の葉緑体ゲノムは、(2)のクリプトモナス・ボーレアリスでは、イントロンの一種が増加して他の領域に入り込んでいた。このため一つの細胞の葉緑体ゲノムのコピーの中で、互いにDNA配列の異なるものが生じ、そのまま細胞分裂していることが分かった。通常、藻類の葉緑体ゲノムは同じDNA配列で構成される。クリプトモナス・ボーレアリスはこれとは異なり、光合成遺伝子をつかさどる葉緑体ゲノムと、そのDNA配列が一部変化した葉緑体ゲノムが混在していた。また、(3)では光合成関連の遺伝子がなく、ゲノムが縮小していた。

 研究グループは、クリプト藻の一部でこうした構造変化により、葉緑体ゲノムから光合成関連の遺伝子がなくなり、光合成の能力を失う進化につながったと推測した。

 イントロンがゲノムの別の場所に入り込むと、必要なタンパク質を作れず、個体が生命活動を維持できなくなる恐れがある。しかしクリプト藻の一部では、光合成の能力を失っても、既に従属栄養の性質を獲得していて生き残り、進化できたと考えられる。

光合成能力の消失に伴うクリプト藻の葉緑体ゲノムの進化。「グループ2イントロン」は転写時に除かれるイントロンの一種で、一部がゲノムの他の場所に入りこむ(国立環境研究所提供)

 研究グループの国立環境研究所の山口晴代主任研究員(藻類学)は「藻類の進化の理解に貢献する成果だ。水域の生態系の理解や、クリプト藻を餌とする養殖魚の品質向上に役立つ可能性もある。光合成の能力を失った寄生性や病原性原生生物の進化の理解にもつながる」と述べている。

 成果は英分子生物学誌「モレキュラー・バイオロジー・アンド・エボリューション」電子版に1月26日に掲載された。

国立環境研究所の微生物系統保存施設。1983年の開設以来、世界トップクラスの約1000種、3000株以上の藻類の培養株を収集、保存。教育や研究開発のために提供している=茨城県つくば市(同研究所提供)

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