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開発中のH3ロケット、打ち上げ直前まで点検し「ほぼ満点」 種子島

2021.03.19

 来年度の初打ち上げを目指し開発中の大型ロケット「H3」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は初号機の機体に極低温の液体燃料を注入し、打ち上げ直前までカウントダウンを行う「極低温点検」を種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)で行った。悪天候で一部の作業を中止したが、検査データを良好に取得したという。

極低温点検のため発射地点に移動したH3=17日、鹿児島県南種子町(JAXA提供)
極低温点検のため発射地点に移動したH3=17日、鹿児島県南種子町(JAXA提供)

 極低温点検は機体と発射地点の設備を組み合わせ、打ち上げまでの作業内容を確認するもの。開発の節目となる大がかりなもので、17~18日に実施した。17日早朝、初めて組み上がった状態で組立棟から姿を見せたH3は、移動発射台に載って約380メートル離れた発射地点へ移動した。電気ケーブルや燃料などの配管を接続。同日夕から約4時間かけて燃料を注入し、並行して機体や設備の点検、機能の確認を進めた。18日午前1時9分の打ち上げ想定時刻に向け、エンジン着火直前である6.9秒前までカウントダウンを進め、手順を検証した。その後は燃料を排出して同日夕に組立棟に戻り、一連の作業を終えた。

 この点検では機体本体や、本体横に取り付ける固体ロケットブースターは実機を使用。人工衛星は搭載せず、また上端部のフェアリング(衛星カバー)は白い実機用とは異なり、試験用の黒いものが使われた。第1段エンジン「LE9」も試験用となった。

移動発射台に載り組立棟から姿を現したH3(左)と、発射地点へと方向転換するH3=17日、鹿児島県南種子町(いずれもJAXA提供)
移動発射台に載り組立棟から姿を現したH3(左)と、発射地点へと方向転換するH3=17日、鹿児島県南種子町(いずれもJAXA提供)

 主要作業を終え18日午前に会見したJAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャは機体移動や発射地点での作業、カウントダウン、地上追尾局の電波受信など、一連のデータを良好に取得したと説明。「学校のテストでいうとほぼ満点。システムを組み合わせる最終段階で大きな手戻りがなく、安心してはいないがホッとしている。開発は大きな山の一つを越えた。引き続き総力を挙げH3を仕上げる」と述べた。

 雨が強まり作業は一時中断。また燃料注入の準備や機体内部の空調のための配管、燃料タンクの加圧用ガス系統の調整などに時間がかかり、打ち上げ想定の60分前にカウントダウンに入る時点で計画より約5時間半、予定時間を超過した。2回のカウントダウンを計画していたが、落雷の恐れが高まったのを受け、1回で十分なデータが取得できたと判断し2回目を中止。優先度の高い項目に絞って検証を進めた。

 現行機の「H2A」は悪天候による延期を除き、高い確度で計画通りの時刻に打ち上げる「オンタイム打ち上げ」を商業打ち上げ市場にアピールしている。今回のH3の作業に計画以上の長時間を要したことについて、共同開発する三菱重工業の奈良登喜雄プロジェクトマネージャは「開発試験であり、慎重に進め課題を修正しながら作業したので時間かかった。結果を反映し練度を上げていき、打ち上げでは確立したスムーズな運用ができるよう仕上げたい。オンタイム打ち上げをするロケットとして開発している」と強調した。

 H3は昨年5月、LE9の燃焼試験で破損が見つかり、今年度に予定していた初打ち上げを来年度に延期している。LE9の現況について岡田プロジェクトマネージャは「(破損が起こらない)設計を固める最終段階」とした。

H3ロケットの想像図(JAXA提供)
H3ロケットの想像図(JAXA提供)

 H3はH2Aと、昨年5月まで運用した強化型「H2B」の後継機。人工衛星の大型化や、世界市場のコストダウンに対応するため開発を進めている。H2Aなどと同じく液体燃料を用いる2段式だが、第2段エンジンで用いてきた日本独自の燃焼方式をLE9に採用する。従来方式に比べ部品数を大幅に減らし、仕組みや制御を簡素化。新技術や自動車用などの民生品の導入も進め、H2Aの基本型で約100億円とされる打ち上げ費用の半減を目指す。最大能力(静止遷移軌道)はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上となる。

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