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血液数滴でアルツハイマー型認知症を診断、島津がノーベル賞技術を応用した世界初の装置

2021.06.29

 島津製作所(京都市)は血液数滴でアルツハイマー型認知症の進行度を判定する世界初の装置の販売を始めた、と発表した。2002年にノーベル化学賞を受賞した同社の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローが開発した技術を応用した。血液採取で済むため、これまでの方法より患者の負担が小さく、コストも安く済むという。

田中耕一 氏(島津製作所提供)
田中耕一 氏(島津製作所提供)
数滴の血液でアルツハイマー型認知症の進行度を判定する装置(島津製作所提供)
数滴の血液でアルツハイマー型認知症の進行度を判定する装置(島津製作所提供)

 国内の認知症患者は2020年に約600万人と推計されているが、その6割以上をアルツハイマー型が占める。発症する20年も前から脳内に「アミロイドβ(Aβ)」と呼ばれるタンパク質が蓄積することが知られている。その蓄積具合を調べて重症度などを診断する検査法として、放射線を用いる「陽電子放射断層撮影(PET)」や腰から針を刺す「脳脊髄(せきずい)液検査」があったが、患者の負担が大きかった。

 田中氏も参加した島津製作所と国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の共同研究グループは、同時に多くの種類の物質を測れる質量分析手法を応用。血液中にわずかに存在し、Aβ量と相関する成分を検出する方法を2018年に考案した。検体は血液数滴、約0.5ミリリットルでも判定可能という。

 研究グループはその後も実用化研究を続けて検査装置「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」(アミロイドMS CL)を完成させ、昨年12月に医療機器の製造販売承認を受けて今回、販売開始にこぎつけた。

アルツハイマー病変の検出法の概念図。下が今回開発した方法の流れ(島津製作所提供)
アルツハイマー病変の検出法の概念図。下が今回開発した方法の流れ(島津製作所提供)

 質量分析は長い間、小さな分子しか適用できなかった。田中氏は試料のタンパク質にコバルトとグリセリンの混合物を混ぜ、そこにレーザーを当ててイオン化させると高分子のタンパク質も質量分析できることを発見。ノーベル化学賞の受賞対象になった。「アミロイドMS CL」にはこの技術が使われている。

 アルツハイマー型認知症については、日本の製薬大手エーザイと米製薬大手バイオジェンが共同開発した「アデュカヌマブ」が6月初めに米食品医薬品局(FDA)の承認を受け、Aβを減らす効果に期待が高まっている。しかし日本国内で承認、販売されるかどうかは未定だ。

 このため現状では進行を遅らせたり、症状進行に伴う不安などを抑えたりする投薬の治療が中心で、早期発見が何より重要とされる。22日記者会見した田中氏によると、症状の進行度を血液に含まれるバイオマーカーで測る機器は世界初という。同氏は「今後も改良を重ね、世界的な課題となっている認知症治療の分野で貢献していきたい」などと述べた。

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