ニュース

体毛を生やす「毛包幹細胞」の起源を解明 理研グループ

2021.06.15

 体毛を生やす起源になる「毛包幹細胞」が形成される仕組みを解明した、と理化学研究所(理研)の研究グループが発表した。まだ基礎研究の段階だが、将来的にはiPS細胞(人工多能性幹細胞)などから毛包幹細胞を効率的につくる技術を活用し、毛髪再生などに応用できる可能性も出てくるという。

 毛包は髪の毛などの体毛を生やす皮膚付属器官で、頭部を含む全身にある。身体を保護したり、感覚に関わったりするなど、重要な機能を担っている。周期的に再生を繰り返す性質があり、毛包幹細胞が再生の鍵を握っているとされていたが、この細胞の起源については未解明だった。

毛包発生のイメージ図。赤色が毛包幹細胞の発生起源(理研提供/奈良島知行氏作成)

 理研・生命機能科学研究センター細胞外環境研究チームの森田梨津子研究員、藤原裕展チームリーダーらは、毛包幹細胞の発生起源を解明する研究を開始。細胞の動きや変化を詳しく見ることができる技術を開発するなど、独自の手法を駆使して、マウスの胎児の毛包が形成される様子を詳しく観察した。さらに「トランスクリプト-ム解析」という手法を使って細胞内の遺伝子発現変化なども調べた。

 これらの研究の結果、発生中の毛包はまず、細胞が同心円のリング状に並び(プラコード期)、次第に真ん中がくぼむように筒状に区画化されることが分かった。また、毛包幹細胞は、この筒状の区画の一部に由来することも突き止めた。

 研究グループは、解明した毛包が発生する仕組みが、伸縮する望遠鏡の動きに似ていることから「テレスコープモデル」と名付けた。この毛包幹細胞の起源はこれまで、米国の研究者が2016年に提唱した「基底上層細胞」と考えられていたため、今回その定説を覆したことになる。

「テレスコープモデル」の概念図(理研提供)

 藤原チームリーダーらは、今回明らかになった仕組みが乳腺や汗腺など他の体表器官にも共通するかを調べることが今後の課題で、さまざまな器官や生物種に共通する形態形成システムを解明したいとしている。さらに、iPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)などの多能性幹細胞から、質の高い毛包幹細胞を効率よくつくり出すことも可能になってくるという。

 研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)などの支援を受けて進められた。研究論文は9日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に掲載された。

関連記事

ページトップへ