野菜や果物を使い、曲げても割れない強度がコンクリートを上回る素材を開発した、と東京大学の研究グループが発表した。実用化すれば、廃棄されてきた食物を建材や容器など、付加価値のある多彩な用途に使え、使用後は食べられる。食物の色や香り、味を残したり、調味料を加えたりもできるという。
研究グループは野菜や果物の皮などの食べない部分をフリーズドライにして粉砕し、適量の水を加え、100度、20メガパスカル(200気圧に相当)程度の熱と圧力を加えて成形した。その結果、白菜で、曲げても割れない強度が18メガパスカルを記録し、一般的なコンクリートの約5メガパスカルを大幅に上回った。ほかオレンジ、バナナ、キャベツ、ブロッコリー、マイタケ、アオサ、タマネギ、いよかん、茶葉でも軒並み10メガパスカルほどの強度が出ることを確認した。
成形時の最適な温度と圧力は、食物により多少異なる。強度が高くなる仕組みは未解明だが、研究グループは中の糖類が熱で軟化し、圧力で流動して隙間を埋めたとみている。キャベツや白菜など、種類によっては食べる部分でも同様の結果が見込まれる。
一方、カボチャや枝豆、ホウレンソウ、カニの殻でも試したが、コンクリートの強度には満たなかった。糖類と食物繊維のバランスが強度を左右しているとみられる。
食物の香り、質感の維持や除去、色の調整もできた。白菜やオレンジなど6種類では、食塩や砂糖、コンソメパウダーを加えて味をよくすることにも成功した。バナナの皮以外は美味で、こうした調味料を加えることでなぜか強度も上がった。
強度を生かして利用した後は食べられる。水に弱いものは口の中で溶けるが、硬いものはゆでて軟らかくする。実用化すれば、食品が廃棄されるフードロスの対策に役立つ可能性がある。皮や種、芯などの食べない部分も、従来のように肥料や飼料にしたり、焼却や埋め立てで処分したりするだけでなく、付加価値をつけて活用することが期待できる。木材に使われる耐水処理をすれば、食べられないが屋外でも使えるという。
研究グループは過去に、コンクリートのがれきを木粉で接着させる手法を開発。これを茶葉でも実験したところ結果が良好だったことから、野菜、果物で次々に試して今回の成果につながった。作業は安価なミキサーやホットプレス機でも行え、ノウハウが確立すれば家庭でも作れそうだ。
強度が高まる仕組みの解明や、耐久性の検証などが今後の課題。研究グループの東京大学生産技術研究所の酒井雄也准教授(持続性建設材料工学)は「例えば食品の皿や容器を、アイスクリームのコーンのように食べられる。建材を非常時に食べることも。アイデア次第で、研究者には予想もつかないユニークな活用が生まれそうだ」と述べている。趣味で工芸品を作り、鑑賞した後に食べるような利用も考えられる。
成果は5月30日、オンラインで開かれた日本材料学会で口頭発表された。
関連リンク
- 東京大学プレスリリース「廃棄食材から完全植物性の新素材開発に成功」