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猿橋賞に東工大の田中幹子さん 脊椎動物の四肢発生の研究で成果

2021.05.24

 優れた女性科学者をたたえる今年の「猿橋賞」が、脊椎動物の手足の発生をめぐり、進化の視点を取り入れて研究し成果を挙げた東京工業大学生命理工学院教授の田中幹子さんに贈られた。主宰する「女性科学者に明るい未来をの会」(石田瑞穂会長)が発表した。

田中幹子さん(女性科学者に明るい未来をの会提供)
田中幹子さん(女性科学者に明るい未来をの会提供)

 授賞理由は「脊椎動物の四肢の発生と進化に関する研究」。ヒトは胎内で起こる「指間細胞死」によってアヒルのような水かきを持たないが、この現象に活性酸素が必要であることを示した。この仕組みが、動物が陸に進出して大気中の酸素にさらされる過程で生じたことを見いだした。

 ヒトの手は根元の骨1本で体につながっているが、基となったとみられる古代魚のヒレの根元には、骨が複数あったとされる。ヒレが古代魚の特徴を持つサメを基に、ヒレのうち親指側に相当する前側よりも手のひら側の後ろ側が広くなっていき、根元の骨が1本になり、手の形へと近づくことを示した。その原因となるゲノム配列の変化を明らかにした。

 ヒトの手足の複雑な筋肉を作る「遊離筋」は、サメより進化的に新しい生物で誕生したとされていた。この定説を覆し、サメのヒレの筋肉も遊離筋のような細胞から作られることを明らかにし、手足の筋肉の発生様式の起源がより古い可能性を示した。

 田中さんは生命現象の本質的な研究課題の一つに独創的なアプローチで取り組み、こうした成果を挙げてきた点が評価された。

 宮城県出身。大阪市立大学理学部卒業、東北大学大学院理学研究科後期博士課程修了。東京工業大学助教授(准教授)などを経て今年2月から現職。

 同会は地球化学者の猿橋勝子博士の基金により創設され、同賞は今年で41回目。贈呈式は例年、5月下旬に都内で開かれるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け前回に続き、22日にオンライン会議システムで行われた。

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 田中さんは取材に対し、次のコメントを寄せた。「このたびは、猿橋賞という名誉ある賞をいただきましたこと、大変光栄でありますとともに、大きな責任を改めて感じております。この栄誉は、これまでに私を支えて下さった周りの多くの皆様、研究室の優秀なスタッフや学生たちのおかげであると実感しております。私たちの研究は、発生プログラムのどのようなポイントが変化されやすく、そして次世代にまで影響しうるのかといった生命科学の基盤的な問題に取り組む重要な課題だと思っております。今後は、猿橋賞の名に恥じぬよう、生命科学研究の発展に努め、真理を探究することの重要性、そして楽しさを伝えていければと思います」

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