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赤外線天文衛星「スピカ」構想、日欧が取り下げ

2020.10.26

 欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、両者が中心になって検討してきた次世代赤外線天文衛星「スピカ」について、ESAの計画の最終候補から取り下げることを決めた。関係者によると欧州側のコスト超過のため。スピカは星や銀河の形成過程の解明に不可欠として、世界的に期待されてきた。赤外線天文学の研究者らは同様の衛星の実現を目指し、再検討を迫られることになった。

赤外線天文衛星「スピカ」の想像図(JAXA、スピカチーム、名古屋大学提供)
赤外線天文衛星「スピカ」の想像図(JAXA、スピカチーム、名古屋大学提供)

 スピカは2020年代末の打ち上げを目指し、日本の開発コンセプトを基本に欧州主導で検討されてきた。ESAの宇宙科学長期プログラムの中型計画での採択を目指し、推進する各国の研究者らが2016年に提案。18年5月に1次選抜で25件の提案から3件の1つに選ばれ最終候補となった。

 ところが、日本の中核メンバーである名古屋大学の金田英宏教授(赤外線天文学)によると今年7月、欧州側のコスト超過が判明。搭載する望遠鏡を縮小するよう欧州側から提案を受けた。さらに一部装置の開発担当を欧州から日本に変更することを求められ、今月2日に両者が協議したという。これを受け日本側研究者らは、この装置を担当しても日本側のコスト上限の300億円を維持する開発案をまとめたものの、構想の取り下げが決まり、ESAとJAXAが15日に公表した。

 スピカは06〜11年に運用した日本初の赤外線天文衛星「あかり」の、事実上の後継機とされた。望遠鏡の口径は2.5メートル(縮小案は1.8メートル)。日本は中間赤外線観測装置や、衛星自体からの赤外線放出を抑える極低温冷却装置の開発などを担当。打ち上げには日本の次世代大型ロケット「H3」を使うとしていた。

 構想では、スピカは遠赤外線や中間赤外線を観測。低温のガスやちりから生まれる恒星や、恒星の周りにできる惑星の様子を捉えることを目指した。来年10月に打ち上げ予定の米国の赤外線宇宙望遠鏡とは観測波長が異なり、特に星の誕生初期を捉えるのに不可欠とされていた。銀河の形成や進化過程の解明も掲げた。

 JAXAの國中均宇宙科学研究所長は「多くの人々が検討に何年も費やしてきた。両機関が熟知し重要視している取り組みで、深く感謝している。残念ながら、非常に意欲的なミッションは厳しい技術を要求し、結果的にコストも高くなってしまった」とコメントした。

 金田教授は「日本はコストが決して超過しないよう準備してきた。科学コミュニティーが入念に取り組んだ構想が事前の説明なく、異例な形で急に取り下げられた。スピカと同様の衛星は必要。次世代の研究者のため、世界で何らかの形で実現するしかない」としている。

 ESAの中型計画で残る2候補は、金星探査機と宇宙最大の爆発現象「ガンマ線バースト」の観測衛星。来年の中頃にいずれかが選出されるという。

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