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多彩な元素誕生の謎に迫る スーパーカミオカンデが「新生」

2020.08.24

 宇宙初期の星の爆発で放出された素粒子ニュートリノを世界で初めて捉えようと、観測施設「スーパーカミオカンデ」(岐阜県飛騨市)の感度を上げて新生させた、と東京大学宇宙線研究所などの実験グループが発表した。タンク内の純水にレアアースのガドリニウムを加えた。爆発現象の理解や、宇宙でさまざまな元素ができた謎の解明につながると期待される。

スーパーカミオカンデの内部(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)
スーパーカミオカンデの内部(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)

 スーパーカミオカンデは地下1キロにあるニュートリノの観測施設。内壁にセンサーを張りめぐらせた巨大なタンクに約5万トンの純水を貯めたもので、1996年に観測を開始した。

 質量の大きい恒星は一生の終わりに「超新星爆発」と呼ばれる爆発を起こす。そのエネルギーの大半はニュートリノとして放出されるため、爆発の仕組みを明らかにするには、このニュートリノの観測を重ねていく必要がある。また、現在の宇宙にある比較的重い元素は超新星爆発でできたと考えられており、その解明のためにもニュートリノの観測が不可欠とされる。

 先代の施設「カミオカンデ」では1987年に超新星爆発からのニュートリノを世界で初めて観測し、主導した小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授が2002年にノーベル物理学賞を受賞している。ただ超新星爆発の観測例はまだ、地球から約16万光年という至近で起きたこの一例のみ。爆発は宇宙初期から繰り返し起きてきたが、はるか遠くからの微弱なニュートリノを捉えるには従来のスーパーカミオカンデでは性能が不足し、別の現象と区別できなかった。

過去の超新星爆発によるニュートリノ観測の概念図。上部の円筒がスーパーカミオカンデを示す(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)
過去の超新星爆発によるニュートリノ観測の概念図。上部の円筒がスーパーカミオカンデを示す(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)

 そこで実験グループは、ガドリニウムを利用して感度を上げることにした。ニュートリノがタンク内に飛び込むと陽電子が生じて発光が起き、この時にできた中性子をガドリニウムが捉えて再び発光が起きる。これを観測することで、超新星のニュートリノであることが特定できるという。

 グループは8月17日にガドリニウムの投入作業を終えたことを、21日に発表した。今回はガドリニウムの濃度を0.01パーセントとし、50パーセントの中性子を捉える性能を達成した。数年かけて濃度をさらに上げ、7〜8年の観測で宇宙初期の超新星爆発からのニュートリノの初観測を目指す。

ガドリニウムを利用した観測の概念図(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)
ガドリニウムを利用した観測の概念図(東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)

 オンラインで会見した実験グループ代表の中畑雅行・東京大学教授は「これでスーパーカミオカンデは新生した。われわれの身の回りの物質がいつ、どうして生まれたのか。超新星をとことん理解し、その根源を理解したい」と述べた。

 スーパーカミオカンデ実験は日米欧など10カ国の約40機関、約180人の研究者による国際共同研究。98年には梶田隆章・東京大学卓越教授(宇宙線研究所長)がニュートリノに質量があることを発見し2015年にノーベル物理学賞を受賞するなど、成果を挙げてきた。

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