新型コロナウイルス感染症対策に関する政府専門家会議の脇田隆字座長(国立感染症研究所長)ら主要メンバー3人が24日午後、日本記者クラブ(東京都千代田区)で記者会見し、懸念される感染拡大の「第2波」に備えてまとめた提案書の内容を明らかにした。提案書は専門家会議のこれまでの活動を振り返り、今後の課題を整理して政府に提言する形になっている。脇田座長は「あたかも専門家会議が感染防止政策を決定しているような印象を与えてしまった」などと語り、今後は専門家助言組織と政府との関係を明確化するよう求めた。
会見したのは脇田座長のほか、副座長の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長と主要メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長の3人。
脇田座長が説明した提案書は「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について」と題した事実上の提言。この中では「専門家会議は本来医学的見地から助言などを行い、政府はその提言を参考にして政策決定を行うが、その境界は外から見ると分かりにくかった」「専門家会議が人々の生活にまで踏み込んだ、と受け止めて警戒感を高めた人もいた」「国の政策や感染症対策は専門家会議が決めているというイメージを作ってしまった側面があった」などと、これまでの活動を自省するように振り返った。
そして政府への提言として「専門家助言組織は役割を明確にした上で社会経済活動の維持と感染症防止対策の両立を図るために医学や公衆衛生学以外のさまざまな領域の『知』を結集すべき」と指摘した。さらに「最新の知見や感染状況を反映した対策を提案する際は広く人々の声を聴き、市民の暮らしに与える影響や被害にまで心を砕いたコミュニケ—ションを実施しなければならない」とし、政府に危機対応時のリスクコミュニケーションのあり方を早急に見直すよう求めた。
記者会見で尾身副座長は「感染症対策というものは実験室の学問や純粋科学とは違う」と発言し、専門家会議の法的位置付けがあいまいな中、感染防止対策に関与せざるを得なかった苦労をにじませた。またリスクコミュニケーションの問題に関連して「対策と社会経済との両立(が大事だ)と言っているが(対策の実施に伴って生じた)差別の問題もあるし、さまざまな心理学的な問題もあるし、法律的な問題もある。地方の人の問題もある。(政策決定に際しては)いろいろな人が関与した方がいい」などと述べている。
2月中旬に日本国内でも感染拡大の恐れが出てきたことについて、脇田座長は「迅速に行動して対策案を政府に伝えないと間に合わないのではないかという危機感が専門家会議メンバーに高まった」とし、「(つい)前のめりになった」と当時の思いを率直に語った。
同座長はこのほか、記者が「東京都では新たに55人の感染者が確認されたが見解は」と質問すると「東京ではハイリスクな場所での感染が続いている。リンク(感染経路)が分からないということは、見えないクラスター感染があることを意味している。市中感染が広がらないか懸念している」と今後の感染状況を心配した。
専門家会議は政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」の下に2月に設置された。感染症や公衆衛生の専門家ら12人が参加し、感染拡大防止策として「人と人との接触の8割削減」「新しい生活様式」など、10回にわたり提唱、提言してきた。
専門家会議の主要メンバー3人が記者会見していたほぼ同時刻に西村康稔経済再生担当相は別途記者会見し、現在の専門家会議を廃止する意向を明らかにしている。法的位置付けを明確にするため、全閣僚で構成する「新型インフルエンザ等対策関係閣僚会議」の下に新設するコロナ対策の分科会に衣替えするという。
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