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クロール、始めのバタ足は“不要不急” 水の抵抗でかえって減速

2020.05.13

 競泳のクロールの泳ぎ出しで、手をかく前に急いでバタ足をする必要はない、と順天堂大学などの研究グループが発表した。水の抵抗でかえって減速することを実験で証明したという。選手が始めの段階のバタ足を止めることで、記録の向上が期待される。

 実験したのは同大スポーツ健康科学部の武田剛准教授、筑波大学体育系の高木英樹教授らのグループ。日常トレーニングを積み、全国規模の大会出場経験を持つ男子選手8人が、1週間の練習を経て実施した。動作のパターンを(1)プールの壁を蹴った後、両足をそろえてキックするバタフライキックだけを5回行ってクロールを泳ぎ出す、(2)バタフライキック5回の後に6回のバタ足を追加してクロールを泳ぎ出す——の2通り設定し、水中カメラで撮影して両者の速度の変化を比較した。

実験の概要。クロールを始める前にバタフライキックのみをするパターンと、バタ足を加えるパターンで速度を比較した(順天堂大学提供)
実験の概要。クロールを始める前にバタフライキックのみをするパターンと、バタ足を加えるパターンで速度を比較した(順天堂大学提供)

 その結果、バタ足をすると、しない場合に比べ平均で秒速31センチ遅くなった。実験に基づくと、バタ足を6回すれば、しない場合よりも約21センチ差が付くことになるという。その後のクロールで速度は復帰するものの、バタ足による遅れは取り戻せず不利になることが分かった。

 武田准教授は「競泳ではスタート台や壁を蹴って勢いをつけることで、高速で泳ぎ出す。水から受ける抵抗が大きいため、この時にバタ足をしても抵抗が増すだけでブレーキになり逆効果。また、足より手の動きによる推進力の方が圧倒的に大きい。泳ぎ出す前のバタ足は省略した方が、勢いを殺さずにクロールに移行できる」と述べている。

実験結果。クロールの前にバタ足をすると、減速してしまうことが分かった(順天堂大学提供)
実験結果。クロールの前にバタ足をすると、減速してしまうことが分かった(順天堂大学提供)

 クロールのバタ足は推進力を得ることより、下半身が沈まないようにする姿勢維持の役割が大きいことが分かってはいたものの、泳ぎ出しの際の効果はよく分かっていなかった。減速の原因になるとの指摘はあったものの、これまでは実証されておらず、競技会ではバタフライキック後、泳ぎやすさのためにバタ足をする選手もみられるという。

 順天堂大学水泳部監督でもある武田准教授は「今回得られた知見に基づき、トレーニングや指導がなされることを期待する。ただ、これは技術レベルの高い選手の話。初級、中級者やジュニア世代は、育成段階や練習計画に合わせて応用を」と付け加える。

 成果はスポーツ科学の国際専門誌「スポーツバイオメカニクス」の電子版に4月27日付で掲載された。

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