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大阪大学など国産の新ゲノム編集手法を開発 編集ミス少ない長所も

2019.12.11

 医療や農畜水産物など広い分野で応用が期待されているゲノム編集の新たな手法を開発したと、大阪大学などの研究グループがこのほど、英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」電子版に発表した。新手法は「クリスパー・キャス3」と名付けられ、現在世界中で利用されている「クリスパー・キャス9」に比べ、より多くの塩基配列を編集できる上に「オフターゲット」と呼ばれるミスも減らせるという。

 研究グループは、大阪大学医学部附属動物実験施設・東京大学医科学研究所の真下知士教授、大阪大学微生物病研究所の竹田潤二招へい教授、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の堀田秋津講師らがメンバー。

 研究グループによると、クリスパー・キャス3はクリスパー・キャス9よりも多い数百から最大数万の塩基配列の編集も可能で、ウイルスなども編集しやすい。また狙った塩基配列以外を編集してしまう「オフターゲット」のリスクも少ないという。グループはまた、京都大学iPS細胞研究所とデュシャンヌ型筋ジストロフィー患者の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った共同研究で、この病気に関係する塩基配列を新手法で編集し、修復することに成功したという。

 ゲノム編集は、遺伝子本体であるDNAの塩基配列を高い精度で書き換えることができる画期的な手法。細胞内で塩基配列を切断する特殊な酵素を使うなどして特定の遺伝子部分が働かなくなるようにしたり、新たな配列を組み込んで新しい機能を持たせることができる。

 リボ核酸(RNA)と特殊な酵素の複合体を使う「クリスパー・キャス9」という手法が2012年に開発された。この手法は、それまでの手法より安価で簡便なことから農畜水産物の品種改良への利用が一気に進んだ。また病気治療を目指した医療分野での研究も国内外で盛んに行われるようになった。一方ゲノム編集を受精卵に応用する研究は、世代を超えて影響する可能性が高いことから多くの国でさまざまな形で規制されている。

 クリスパー・キャス9は、米国主導で開発され、特許権利関係が複雑で日本での利用が制限される懸念があった。このためにクリスパー・キャス9のような簡便で安価な手法かつ国産の手法の開発が待たれていた。研究グループは、新手法は従来よりも安全性の高い新しい日本発ゲノム編集基盤ツールとして創薬や遺伝子治療、農畜水産物への利用などさまざまな分野への活用が期待できる、としている。

ゲノム編集の新手法として開発された「クリスパー・キャス3」の模式図(大阪大学などの研究グループ提供)
ゲノム編集の新手法として開発された「クリスパー・キャス3」の模式図(大阪大学などの研究グループ提供)

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