血液中にある微小な生体分子「マイクロRNA」を調べてがんの有無を判別する新検査法で食道がん患者の96%を見つけることができたと、国立がん研究センターの研究グループがこのほど発表した。同センターは、13種類のがんを対象にマイクロRNAでがんの有無を診断する画期的な手法をすでに考案し、この新検査法の実用化を目指してがんの部位ごとに研究を進めている。今回の成果は食道がんでの実用化にめどが立ったことを示した。実用化されれば、現在人間ドックなどに導入されている「腫瘍マーカー」よりも発見率が高い「診断マーカー」としての活用が期待できる。
研究グループは国立がん研究センターの中央病院をはじめ、センターに所属するさまざまな臨床、研究部門のメンバーで構成されている。研究グループは、一般の細胞だけでなくがん細胞からも血中に分泌されるマイクロRNAに着目。がんの種類により、それぞれのがんに特有な種類のマイクロRNAが血液中に分泌されることを突き止め、マイクロRNAの種類や分泌量の変化を調べて高い確率でがんができているかどうかを判別する検査手法を考案している(体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト)。検査に必要な血液はわずか1〜数滴という。実用化に向けた研究対象のがんは胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓(すいぞう)がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱(ぼうこう)がん、乳がん、肉腫、神経膠腫(こうしゅ)という日本人に多い13種類だ。
研究グループは今回、食道がんを対象に研究した。食道がん患者566人とがんを持たない4965人を合わせた計5531人の血液を使って、食道がんに特徴的なマイクロRNAを調べた。その結果、がんの有無の判定に使える6種類を特定し、これらの分泌量などを調べる新検査法によって96%の食道がん患者を発見できることを確認した。早期がんの「ステージ1」から進行がんの「ステージ4」まで、いずれの進行度でも95〜100%という高い確率で患者を診断できたという。
国立がん研究センターではすでに卵巣がんを対象に同様の新検査手法で99%の確率で患者を見つけたと発表。ほかのがんについても検査用キットメーカーと協力しながら新検査法の実用化に向けた研究を続けている。
マイクロRNAは、血液や唾液、尿などの体液に含まれ、22基程度の小さな RNA。人間では2500種類以上あるとされる。体内の細胞はこのマイクロRNAを微小な袋に詰めて血中に分泌する。正常な細胞だけでなくがん細胞も特有のマイクロRNAを放出してがんの進行に関わるさまざまな“悪さ”をすることが分かってきた。
現在の腫瘍マーカーは、主に細胞ががん化して死ぬときに出すタンパク質を検出する仕組みだ。このため、ある程度がんが進行しないと発見が難しく、精度向上が課題だった。
食道がんは男性に多く、進行が比較的速いために早期発見が極めて重要。飲酒や喫煙が発病に大きく影響するとされている。最新のデータによる10年生存率は約30%。ステージ1は約65%だがステージ4は約7%で、早期発見・治療が最大の課題とされる。
今回の成果について国立がん研究センター中央病院消化管内科の加藤健(かとう けん)医長は「食道がんは早期診断で根治を目指した治療ができる病気だ。今回、微量の血液検査で症状がない段階の食道がんを早期発見できる可能性を示した点で大きな意義がある。今後さらに検証を重ね、臨床現場で役立つ診断マーカーとなることを期待している」などと述べている。
関連リンク
- 国立がん研究センタープレスリリース「食道がんを早期から検出できる血液中マイクロRNAの組み合わせ診断モデル作成」