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科学と社会をつなぐ「サイエンスアゴラ2018」が9日開幕 「共創」のあり方探るセッションなど多彩な120企画

2018.11.06

 「越境する」をテーマに科学技術振興機構(JST)が主催する国内最大級の科学フォーラム「サイエンスアゴラ2018」が11月9日(金曜日)から11日(日曜日)まで、3日間の日程で東京・お台場地域の日本科学未来館とテレコムセンタービルで開かれる。「アゴラ」は古代ギリシャ語で「広場」の意味で、「サイエンスアゴラ」は「科学と社会をつなぐ広場となり、両者の関係をより深めていく」ことを目指している。

 13回目の開催となる今回は「『共創』活動をクローズアップする」「次世代人材の活躍を促進する」「『科学技術に対する社会的期待や課題』に関する市民の声を収集する」という3つの目標を企画の柱にしている。この背景には「現在の多様な問題を解決するためには一つの学問分野、立場、世代の知恵だけでは対応できず、さまざまな壁を越えて人々の知恵を結集する必要がある」「次世代の人たちと共に考えることが大切」といった主催担当者の問題意識がある。11日までの期間中、基調講演やキーノートセッション、ブース企画など、合わせて120の多彩な企画が進行する。主催担当者はこうした企画を通じて研究者と一般市民の間、また分野が異なる研究者の間など、多様なステークホルダーの間で互いに「越境した」交流や対話が盛んに行われて未来を見定め、方向性を見いだすための重要なヒントが浮かび上がることを期待している。

「サイエンスアゴラ2018」のロゴ
「サイエンスアゴラ2018」のロゴ

 初日の9日は午後1時に開幕。「あらゆる制限を超えて75億人をつなぐ挑戦」と題した「基調講演」や、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成の先を見越して「未来の幸福をデザインする社会の共創」のあり方を探る「キーノートセッション」が日本科学未来館で予定されている。「基調講演」は長く研究開発が続けられてきた「アバター技術」の実用化に向けて挑戦する「ANAホールディングス」の事業メンバーが登壇する。アバターは分身となるロボットなどと、自分の視覚・聴覚・触覚などを同期して遠隔操作をする技術。自分の業務範囲を「人をつなぐこと」であるとする登壇者により、「移動を伴わない旅行」の実現に向けた意欲的な取り組みが紹介される。

 現在、欧米などでは自国主義の考え方や主張が広がりつつあり、国際協調を大前提とする国連のSDGs達成に向けた状況は楽観できないとの声もある。そうした中で「キーノートセッション」は厳しい環境や障壁を論ずるのではなく、あえてSDGs達成の先の社会を具体的に見据えることでSDGsの大切さをあらためて共有する狙いもある。セッションでは「世界経済フォーラム」や「フューチャー・センター・アライアンス(FCA)」の関係者らが登壇。日本の研究開発や産業がどのような価値を提供できるか、などを探る。

「サイエンスアゴラ2018」の初日9日の会場になる日本科学未来館
「サイエンスアゴラ2018」の初日9日の会場になる日本科学未来館
「サイエンスアゴラ2018」の10日、11日の会場になるテレコムセンタービル
「サイエンスアゴラ2018」の10日、11日の会場になるテレコムセンタービル

 2日目の10日から会場はテレコムセンタービルに移る。さまざまな交流企画が展開する場となる「アゴラステージ」もオープンする。

 10日は午前中、「理系で広がる私の未来」と題するトークセッションが20階会議室で開かれる。このセッションは内閣府男女共同参画局とJSTが主催。宇宙飛行士の山崎直子さんや東京大学工学部4年の女子学生、企業で活躍する女性役員ら、内閣府が選定した「STEM Girls Ambassadors」が登壇する。女性のロールモデルとの対話を通じて次世代のイノベーションを支えるために重要な「理系選択」後の未来について語り合う。

 「アゴラステージ」では10日に「よしもとロボットプログラミング特別教室for SDGs」が行われる。「(株)よしもとロボット研究所」が企画提案者で、人型ロボット「Pepper」を使って、小学生を主な対象とする参加者にSDGsをテーマにしたお題に沿ってプログラミングしてもらい、出来た作品を発表する「笑い×プログラミング」を組み合わせた企画という。

 11日には高校生と研究者、起業家が参加する「“未来総理”になって考える日本の未来」が予定されている。現在、さまざまな、また複雑化した社会課題が日々発生している。そうした課題に対し、「バックキャスティング思考」を基に課題解決のための多様なアプローチを比較しながら解決への道筋を模索する試みだ。分野が異なるプロフェッショナルな視点や高校生の自由な発想に基づく提言について議論するという。

昨年の「サイエンスアゴラ2017」開幕セレモニーの1場面。テレコムセンター1階「アゴラステージ」で行われた
昨年の「サイエンスアゴラ2017」開幕セレモニーの1場面。テレコムセンター1階「アゴラステージ」で行われた

 10、11日はテレコムセンタービルの1階、3~5階を使って親子連れや学生ら若い人を含めた一般市民も共に考え、楽しめるよう工夫された大学、研究機関などが出展する70のブース企画が進行する。一例を紹介する。()内は企画提案者。

 科学技術、イノベーションが関わる国内外の課題や地球規模の課題を取り上げた企画としては「サイボーグ、自動運転、洪水予測。未来の技術を使いこなせる?(東京大学生産技術研究所)」「新たな災害時に途切れない教育システムの開発と検証(お茶の水女子大学)」「生物多様性〜外来生物と命の大切さ〜(生物多様性保全協会)」「将来の食料を賄うにはどのような方法が良いのか?(JST)」など。科学技術の先端に触れることができる企画としては「Fashion Tech Lab 発明のその先へ、最新テクノロジーと共にデザインする力。(Fashion Tech Lab・デジタル・ハリウッド大学院)(アゴラステージでも展開)」「IoTってなに?IoTで変わるスマート東京(東京都立産業技術研究センター)」「不思議だけどおもしろい!量子ビームのワンダーランド(量子科学技術研究開発機構)」「遺伝カウンセラーと一緒にゲノム医療を考えよう!(大阪大学大学院医学系研究科)」などが予定されている。

 また、「川の模型で実験〜大雨が降ったらどうなるの??〜(リトルリバーリサーチ&デザイン)」「世界に一つの岩石標本製作—ジオパークを楽しもう!(日本ジオパークネットワーク)」など、親子で参加できそうな企画も多い。このほか、「ぐんま☆繭から生糸をつむごう☆スライムをつくろう☆(樹徳高等学校理科部)」「金魚人〜体感する浮世絵の自然観〜(東京藝術大学COI拠点)など、多数の注目企画が予定されている。

 10、11日の両日、テレコムセンタービルの8階と20階の会議室では来場者も議論に参加できる企画も用意されている。「感染症克服を目指したオールジャパン戦略(感染症研究教育拠点連合)」「地域での発達障害支援を考えよう〜うちの子、少し違うかも・・・Final(JST)」「超スマート社会とSDGs(日本学術会議・科学と社会委員会)」などだ。 また、テレコムセンタービルの1階には「オピニオンボード」が設置される。科学技術に対する期待や課題について、来場者の多様な意見を知るのが目的。科学技術に関する4つの問いについて自由に付箋に書いてもらいボードに貼ってもらう仕組みだ。こうしたボードだけでなく、多くの企画も一般市民が科学や科学技術について広く意見を述べる場に、また研究者・科学者にとっても多様な意見を聞ける場になるよう工夫されている。

 これまで5回、サイエンスアゴラの企画、運営に関わってきた担当者は「科学に求められる社会の期待を、対話を通じて明らかにしていく場にすることを担当者全員で目指してきたし、今回も目指している。(会期中は)リアルに活動している少しでも多くの人と話し共感したい」などと企画内容に自負をのぞかせながら多くの来場者を期待している。

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