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雌雄逆の昆虫発見の日本人研究者ら4人にイグ・ノーベル賞

2017.09.19

 「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる」ユニークな科学研究成果を残した研究者に贈られる今年の「イグ・ノーベル賞」で、ブラジルの洞窟に生息する昆虫の雌に雄のような交尾器があることを発見した日本の2研究者ら4人が生物学賞を共同受賞した。北海道大学が14日発表した。授賞式は同日、米ハーバード大学で行なわれた。

 受賞したのは北海道大学農学研究院の吉澤和徳(よしざわ かずのり)准教授、慶応大学商学部の上村佳孝(かみむら よしたか)准教授とブラジルの研究者ら4人。

 吉澤さんらが発見したのは、ブラジルの洞窟に生息する、雌雄の交尾器の構造が逆転した体長3ミリほどのチャタテムシという昆虫の仲間。研究成果を2014年4月の米科学誌カレントバイオロジーに発表した。この昆虫は、雌がペニスのような挿入器を持ち、雄に挿入して交尾するという。雌は交尾の間に挿入器を通して、雄から精子と栄養入りカプセルを受け取る。雌の挿入器の根元には多くのトゲが生え、雄をつかまえるために使われているという。

 吉澤さんらは、平安時代後期の宮中を舞台に姉弟が性別を入れ替えて暮らす物語を描いた「とりかへばや物語」からとって、この昆虫に「トリカヘチャタテ」という和名を付けた。

 吉澤さんは、性が逆転した進化のシナリオとして、「栄養カプセルの贈与で、雄の生殖にかかるコストが上昇し、雌の方が雄よりも速いペースで再交尾が可能になった。これによって、雌雄の交尾への積極性が逆転し、交尾器の構造も逆転した。栄養をめぐる雌同士の競争も起き、挿入器の発達を促した」とみている。

 吉澤和徳さんは論文発表当時の2014年4月、科学技術振興機構(JST)サイエンスポータル編集部の取材に「生物の性差がどのように進化したかはまだ決め手がない。性の逆転は極めてまれだが、雌雄が逆転した生物の研究は進化の性選択理論の検証に重要な意味を持つ。最初、標本を見たときは、どちらが雌か雄か、混乱させられて、びっくりした。チャタテムシの分類学者は日本で私だけ、世界でも5人ぐらいだ。そうした地味な昆虫の研究から始まった発見で、基礎研究の重要さをあらためて痛感した」と話している。

写真1 交尾状態のトリカヘチャタテ。体長3ミリ。昆虫の一般的な交尾と異なり、雄の上に雌が乗りかかる姿勢で交尾する。(吉澤和徳さん提供)
写真1 交尾状態のトリカヘチャタテ。体長3ミリ。昆虫の一般的な交尾と異なり、雄の上に雌が乗りかかる姿勢で交尾する。(吉澤和徳さん提供)
写真2 トリカヘチャタテの雌ペニスが雄に挿入された状態(吉澤和徳さん提供)
写真2 トリカヘチャタテの雌ペニスが雄に挿入された状態(吉澤和徳さん提供)

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