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早期膵臓がん新マーカーの大規模臨床研究を実施 実用化に向け国立がん研究センター

2017.07.03

 早期の膵臓(すいぞう)がんを検出できるとの検証結果が出ていた新しい腫瘍マーカーの大規模臨床研究を、国立がん研究センターなどの共同研究グループが鹿児島県で実施する。この新マーカーは既に日米の研究施設で有効性が確認されている。今回の大規模臨床研究でも検出効果が立証されれば集団検診での実用化に向け大きく前進することになる。

 この新マーカーは、国立がん研究センター研究所早期診断バイオマーカー開発部門の本田一文(ほんだ かずふみ)ユニット長らが着目したタンパク質を使っている。正確には、コレステロールの形成に関与するタンパク質(apoA2)のアイソフォーム(構造や機能が似ている分子の総称)。本田ユニット長らはapoA2アイソフォームを使った検査キットを既に開発。国立がんセンター中央病院など全国7施設から集まった膵臓がんや膵炎などの患者と健常者から提供を受けた約900の血液検体を新マーカーの検査キットで調べた。これとは別に米国立がん研究所(NCI)とも共同で同じような検査キットの検証を実施した。

 それらの結果、いずれの検証でも早期の患者でapoA2アイソフォームの量が低下していることが確認されたという。NCIとの検証では「ステージ(進行度)」1や2の患者の血液で健康な人の半分以上減少していることが分かり、NCIはapoA2アイソフォームが信頼性高い新しいマーカーとして活用できると評価した。国立がん研究センターはこうした結果から新マーカーの実用化に向け大規模臨床研究を実施することにした。

 計画では、期間は7月から2019年3月までの間、鹿児島県内で実施される地域健康診断や人間ドックを受ける50歳以上の男女5,000〜10,000人を目標に被験者を応募して大規模臨床研究を実施する。個別の検査の結果、異常数値が出た患者は造影CT検査で精密検査する。こうした臨床研究を続けて新マーカーの早期膵臓がん検出効果を最終的に判断するという。

 膵臓は、膵液と呼ばれる液体を分泌して消化や血糖値の調節などに関わる大切な臓器。膵臓がんは、増加傾向にあり年間3万人近くが死亡。早期段階では症状がほとんどなく、進行も速いために早期発見が難しい。外科手術が基本的な治療法だが、膵臓付近は細い血管が複雑に絡んでいることなどから高度な技術が必要だ。5年、10年生存率はそれぞれ約10%、約5%程度で、2年以内の再発率は約7割という難治がん。

 現在人間ドックなどで使われているマーカー「CA19-9」は早期膵臓がんの検出精度は高くない、と指摘されており、検診での使用は推奨されていない。国立がん研究センターは、apoA2アイソフォームとCA19-9の2つのマーカーを組み合わせて検診で使用することにより、早期膵臓がんの人をなるべく多く見つけて死亡率減少に貢献できると期待している。

 今回の大規模臨床研究には国立がん研究センターのほか、日本対がん協会、鹿児島県民総合保健センター、鹿児島大学、鹿児島市立病院、出水総合医療センター、横浜市立大学、神戸大学、金沢大学、滋賀医科大学が参加する。

画像 apoA2の分子構造
画像 apoA2の分子構造
図 膵臓がんの新マーカーキットの活用概念図(国立がん研究センター作成・提供)
図 膵臓がんの新マーカーキットの活用概念図(国立がん研究センター作成・提供)

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