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「超スマート社会」の暮らし描く 平成28年版科学技術白書

2016.05.23

 政府が提唱する「超スマート社会」の暮らしぶりを具体的に描き、生活や産業の隅々にインターネットが入り込んだ社会実現までの道筋と課題を示した「平成28年版科学技術白書」がまとまった。人工知能(AI)やロボットが日々の生活の中で活用される20年後の社会を分かりやすく提示しているのが特徴で、政府が20日に閣議決定し、公開した。

 科学技術白書は正式名称「科学技術の振興に関する年次報告」で科学技術基本法に基づき国会に提出する報告書。毎年日本の科学技術の現状や政策課題などをまとめている。今回の白書は本文290ページ。「ノーベル賞受賞を生み出した背景」と題した特集を冒頭に掲げた。本文の第1部は「IoT/ビッグデータ(BD)/人工知能(AI)等がもたらす『超スマート社会』への挑戦」。今年度が初年度となる第5期科学技術基本計画で「世界に先駆けて実現を目指す」と宣言した「超スマート社会」が実現する20年後の日常生活がどう変わるかを、仮想家族の物語形式で紹介している。

 その一方でこうした社会の実現に必要な人材は米国や中国など諸外国と比べて著しく少なく、人材の育成が最大の課題であることも明示した。

 また第2部「科学技術の振興に関して講じた施策」では「社会とともに創り進める政策の展開」(第5章)の中で「国民の視点に基づく科学技術イノベーションの推進」や「科学コミュニケーション活動の推進」の重要性を指摘している。

 冒頭の特集では、「今世紀に入ってからは日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者数は米国に次いで世界で2番目」と強調した上で、2000年以降の受賞者16人について分析している(自然科学系全受賞者は21人)。この中で受賞対象になった業績を上げた年齢を調査し、16人のうち26~40歳が8人、41〜45歳が5人 で45歳以下が大半であることを示して「若手研究者への支援が大切」とした。さらに、研究者の雇用、研究環境にも触れ、16人全員が20~30代に「安定的なポストに就いた」とし、若い時の落ち着いた研究環境で業績を残していたことや、受賞者の多くが政府による研究費や施設、設備を活用した事例も挙げた。また、留学や海外研究での経験が刺激になった例も多い、とした。

 このほか、受賞者が科学に興味を持ったきっかけについても分析し、「小学校時代の科学の実験」(田中耕一氏 )「小学校時代に扇風機の仕組みに興味」(天野浩氏)「高校時代に物理の先生の話を聞き物理に興味」(梶田隆章氏) など幼少時期の受賞者に大きく影響した体験も例示して理科教育の大切さも説く形になっている。

 「本編」となる第1部で「超スマート社会」の姿を「ネットワークの高度化、ビッグデータ解析技術とAIの発展によりサイバー空間と現実空間が融合することで訪れる」と定義。こうした社会は「膨大なデータ量を背景に従来のものづくりやエネルギーなどの分野が分野の枠を超えて相互に作用することであらゆる人に高度なサービスの提供が可能になる」「危険な労働や肉体労働、専門的職業での代替が進み、創造的な仕事への注力が可能になる」とした。

 その上で2035年ごろの仮想家族(増田家)の姿として「父親が自動運転の車を買うためにインターネットで好みのパーツを組み合わせて注文すると工場で自動的に組み立てられて自宅に届く」「ロボットが家族の健康データを考慮して献立を提案し、栄養バランスのとれた食事を提供してくれる」「就寝中に急病になってもベッドに取り付けられたセンサーが検知して病院に通報し、緊急対応してくれる」といった日常生活の場面のほか、地域ごとに太陽光発電やバイオマスを利用して大規模発電所に頼らないエネルギーの「地産地消型地域社会」や、自然災害時の効率的救助、支援の在り方なども具体的に例示している。

 今回の白書で重要課題と位置付けられた「人材育成」に関連する項目(第1部第2章第3節)では「日本のIT技術者は100万人程度で米国の3分の1、中国の2分の1」「AIの特許出願件数は米国が全体の約5割、中国と欧州がそれぞれ約2割なのに対し日本は1.5割程度」と指摘し、「スマート社会」実現のためにはこうした課題克服が求められていることも強調している。

(写真 文部科学省提供)
(写真 文部科学省提供)

 「平成28年版科学技術白書」の主な構成は次の通り

〇特集「ノーベル賞受賞を生み出した背景〜これからも我が国からノーベル賞受賞者を輩出するために〜」

〇第1部「IoT/ビッグデータ(BD)/人工知能(AI)等がもたらす「超スマート社会」への挑戦〜我が国が世界のフロントランナーであるために〜」

  • 第1章「超スマート社会」の到来
    • 第1節 我が国の未来社会像
    • 第2節 超スマート社会の姿
  • 第2章 超スマート社会の実現に向けた我が国の取組(Society 5.0)の方向性
    • 第1節 超スマート社会を支える研究開発及びシステム化の推進
    • 第2節 超スマート社会における科学技術イノベーション創出手法の革新
    • 第3節 「超スマート社会」で活躍する人材の育成・確保

〇第2部「科学技術の振興に関して講じた施策」

  • 第1章 科学技術政策の展開
    • 第1節 科学技術基本計画
    • 第2節 総合科学技術・イノベーション会議
    • 第3節 科学イノベーション総合戦略
    • 第4節 科学技術イノベーション行政体制及び予算
  • 第2章 将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現
    • 第1節 震災からの復興、再生の実現
    • 第2節 グリーンイノベーションの推進
    • 第3節 ライフイノベーションの推進
    • 第4節 科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革
  • 第3章 我が国が直面する重要課題への対応
    • 第1節 重要課題達成のための施策の推進
    • 第2節 重要課題の達成に向けたシステム改革
    • 第3節 世界と一体化した国際活動の戦略的展開
  • 第4章 基礎研究及び人材育成の強化
    • 第1節 基礎研究の抜本的強化
    • 第2節 科学技術を担う人材の育成
    • 第3節 国際水準の研究環境及び基盤の形成
  • 第5章 社会とともに創り進める政策の展開
    • 第1節 社会と科学技術イノベーションとの関係強化
    • 第2節 実行性のある科学技術イノベーション政策の推進
    • 第3節 研究開発投資の拡充

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