光る生物の発光の仕組みは、いまだにその多くが謎のままだ。そんな中、キノコが緑色に発光するための原因物質を、大場裕一(おおば ゆういち) 名古屋大学大学院助教らのチームが、ロシア科学アカデミーのヨーゼフ・ギテルソン教授、イリヤ・ヤンポルスキー博士らのチームと共同で特定した。多くのキノコに含まれる「ヒスピジン」という物質と、光るキノコだけが持つ酵素が反応することで発光するという。
光るキノコは日本に10種類以上見つかっており、そのうちの8種類以上が、発光生物の宝庫として知られる八丈島で確認されている。名古屋大を拠点とする大場氏らのチームは2005年から八丈島に通い続け研究を進めてきた。そしてこの島に生息する「ヤコウタケ」を大学でも栽培し、すりつぶしてさまざまなキノコから採取した物質を混ぜる実験を3~4年繰り返し行い、ヒスピジンとヤコウタケの酵素が反応して光ることを突き止めた。今回の成果は、これに先行してロシアのチームがベトナムから採取した発光キノコの一種から得ていた同一物質による研究結果を、日本のチームが証明した形で結実した。
非発光のキノコにも含まれるヒスピジンは、がん細胞を殺すことでも知られるが、これまで発光との関係については見過ごされてきた。また、発光生物の多くは、主に深海に生息し、刺激を与えたときにだけ発光するものが多い。今回、常時発光するキノコの発光物質が特定されたことで、新たな応用技術の開発につながるかもしれない。
大場氏は、「長らく謎だった発光キノコの発光物質が決定できたことは、発光キノコの発光メカニズム全貌の解明のための重要な一歩だと思う。現在、慶應義塾大学の榊原康文(さかきばら やすぶみ)教授らとヤコウタケの全ゲノム解読を進めている。ロシアと慶應大と名古屋大の共同で、酵素遺伝子の特定や反応メカニズムの詳細を解決したい」と語っている。
関連リンク
- 「Angewandte Chemie」より「The Chemical Basis of Fungal Bioluminescence」