東京大学宇宙線研究所は3月18日、東大西洋のカナリア諸島ラパルマに国際宇宙ガンマ線天文台(CTA)の大口径望遠鏡を設置すると発表した。宇宙ガンマ線の高精度観測で、宇宙線の起源やブラックホール周辺のさまざまな物理現象、ガンマ線バーストの解明、暗黒物質の検出に挑戦する大規模な国際計画だ。今年9月から、日本が中核を担う大口径望遠鏡の1号基の建設・設置に着手し、2016年11月には、この1号基を完成し、観測を始める。
現在、地上にあるテラ電子ボルト(TeV、1兆電子ボルト)ガンマ線観測装置が次々に新天体からのガンマ線を報告しており、宇宙はわれわれの想像をはるかに超える高エネルギー現象に満ちていることがわかってきた。「テラ電子ボルトガンマ線天文学」は今や発展期に移りつつある。それを担うのが次世代のTeVガンマ線天文台のCTAで、日本の約100人を含め、28カ国から1200人以上の研究者が集結し、その建設準備を進めている。
CTAは、世界で唯一の大規模なTeV ガンマ線望遠鏡として、現在の装置の10倍の感度と優れた角度分解能を達成し、1000を超す高エネルギー天体の観測に挑戦する。観測するTeV ガンマ線は人間の目で見える可視光より12ケタ、1兆倍も高いエネルギーの光子で、日米欧の研究者らが検討し、望遠鏡を開発してきた。大中小の多数のチェレンコフ望遠鏡群からなり、南半球(チリが有力)と北半球に1カ所ずつ設置され、全天を観測する。
23m口径の大口径望遠鏡は、南北のCTA大規模アレイの中央部にそれぞれ4基設置され、宇宙から飛来するガンマ線を観測するCTAの主役である。東京大学宇宙線研究所を中心とする日本のグループが、この大口径望遠鏡の開発を主導してきた。23m口径の大きな主鏡で、大気中に突入したガンマ線が引き起こす空気シャワーから、より多くのチェレンコフ光を測定する。ガンマ線では、現在のところ誕生してから66億年たった宇宙しか見えないが、CTAでは宇宙誕生後16億年の若い宇宙が見える見込みだ。
CTAの全体の費用は約300億円で、日本が約15%を分担する。2020年に完成の予定。日本のグループは、大口径望遠鏡のうち、総面積400平方メートルの高精度、高反射率の分割鏡、その分割鏡を制御するアクチュエーターシステム、高量子効率の光センサーからなるカメラ部を担当してきた。大口径望遠鏡1号基がカナリア諸島ラパルマにあるロケ・ムチャチョス天文台(標高2200m)に設置されることがこのほど正式に決まった。
CTA大口径望遠鏡プロジェクトリーダーの手嶋政廣(てしま まさひろ)東京大学宇宙線研究所教授は「日本側の望遠鏡の製造はほぼ半分まで進んでいる。今年1年で作り込んで、来年夏に現地に送って設置する。これは世界の宇宙線研究者の夢の装置で、待望のガンマ線バーストの初観測もできるだろう。CTAは日本が主導して、科学の成果を出せるときがいよいよきた。観測が楽しみだ」と話している。
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- 東京大学宇宙線研究所 プレスリリース