ニュース

室内光で動き音で伝える腕章型体温計

2015.02.23

 室内光で発電し、音で発熱を知らせる、有機集積回路による腕章型フレキシブル体温計の開発に、東京大学生産技術研究所の桜井貴康(さくらい たかやす)教授と更田裕司(ふけた ひろし)助教、東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫(そめや たかお)教授らが成功した。人の体調を継続的にモニターするセンサーの実用化に道を開く成果といえる。2月22日〜26日にサンフランシスコで開催された国際固体回路会議(ISSCC)2015で発表した。

 人々の健康を守るため、脈拍や体温などの生体情報を常時モニターするアプリケーションに注目が最近集まっている。このような人体に直接接触するセンサーには、従来の電子部品にはなかったような装着感のない柔らかさや、ケーブルが不要なワイヤレス構造が求められる。さらに、電池交換のようなメンテナンスが不要なことも重要となる。

 研究グループは、室内光で発電し、音で発熱を知らせる腕章型フレキシブル体温計を作り、これらの課題を一挙に解決した。この体温計は、有機集積回路、温度センサー、太陽電池とピエゾフィルムスピーカーで構成される。温度センサーは、検知温度が36.5〜38.5℃の範囲でブザー音を鳴らすように自由に調製できる抵抗変化型で、高分子フィルム上に作製され、装着感のない柔らかさを実現した。有機集積回路とピエゾフィルムスピーカーで、電子ブザーもフレキシブルにした。ブザー音は、人の耳に聞こえて、スピーカーの特性も良い3〜6kHzに設定した。有機集積回路で音を発生させるのは世界で初めて。

 さらに、さまざまな明るさの部屋で発電して使えるように有機電源回路も開発した。この回路で、回路がない場合に比べて使用できる部屋の明るさの範囲を7.3倍に広げられることを実証した。このような電源回路を有機トランジスターだけで実現したのも世界で初めてという。このフレキシブル体温計は人の上腕部に取り付けられ、体温を常時モニターする。体温が設定した温度を超えると、「発熱している」と判断して、周囲に音で知らせる。この一連の動作はすべて、室内光で発電される電力で賄うことができるため、電池交換などのメンテナンスは不要となる。

 桜井貴康教授は「太陽電池だけで動作する自立可能なセンサーシステムを実現した。発熱のブザー音だけでなく、原理上は数値情報も送れるため、体温の情報を送ったり、多点での測定結果を送ったりするなどの応用も期待できる。暗い夜間はまだ使えないのが課題だが、フレキシブルな充電池などの開発も進んでおり、将来は昼間に蓄えた電力で夜間も動作できるだろう。原理的には、温度以外にも、水分や圧力などさまざまなセンサーに応用できるので、幅広い用途のセンサーに応用が期待される」と話している。

有機集積回路を用いた腕章型フレキシブル体温計
図1. 有機集積回路を用いた腕章型フレキシブル体温計
発熱を音で周囲に知らせるフレキシブルな電子ブザー
図2. 発熱を音で周囲に知らせるフレキシブルな電子ブザー
(いずれも提供:東京大学)

ページトップへ