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タンパク質「集合と拡散」が草丈を制御

2015.02.09

 植物のステロイドホルモンのシグナル伝達を抑制するタンパク質が、細胞内で「集合と拡散」をすることによって、植物の草丈を制御するというユニークな仕組みを、理化学研究所(理研)の中野雄司(なかの たけし)専任研究員と嶋田勢津子(しまだ せつこ)特別研究員らが見いだした。植物の草丈を自在に制御する技術に道を開く発見といえる。長田裕之(おさだ ひろゆき)主任研究員や東京大学の浅見忠男(あさみ ただお)教授らとの共同研究で、2月6日付の米科学誌The Plant Cellオンライン版に発表した。

 このホルモンはブラシノステロイド。米農務省の研究グループが1979年にアブラナの花粉から分離した。植物の成長に重要な役割を果たすことが知られているが、非常に高価で、農業には利用されていない。また、このステロイドが植物でどのように機能しているかは謎だった。理研の研究グループは2002年に、ブラシノステロイドの生合成を自在に制御できる阻害剤のブラシナゾール(Brz)を実験植物シロイヌナズナに添加するケミカルバイオロジー法によって、突然変異体を単離し、ブラシノステロイドのシグナル伝達を促進するBIL1タンパク質を見つけていた。今回は類似の方法で、シグナル伝達を抑制するタンパク質BSS1を発見した。

 詳細な機能を明らかにするため、緑色蛍光タンパク質を融合させて、BSS1のシロイズナズナ細胞内の動きを追った。阻害剤のBrzでブラシノステロイドを欠損した状態では、BSS1タンパク質は「集合」して大きな塊を形成し、茎の伸長を抑制していることを突き止めた。一方、ブラシノステロイドを添加した場合、BSS1は「拡散」して塊は消失し、茎の伸長が促進された。ブラシノステロイド合成の鍵となる転写因子のBIL1タンパク質はBSS1の「集合」で引き止められていたが、「拡散」で開放されると、細胞質から核へ移行して、草丈を伸ばす仕組みも確かめた。

 中野雄司専任研究員は「植物の成長の制御が、BSS1タンパク質の『集合』と『拡散』で制御される新しい仕組みがわかった。ステロイドの増減に伴ってタンパク質が集合と拡散をするのは珍しい調節の仕方だ。シロイヌナズナの結果だが、BSS1遺伝子は、イネやトウモロコシ、サトウキビなどにも保存されており、同様の仕組みは広く存在する可能性は大きい。これらの実用作物でBSS1遺伝子の研究が進めば、植物の草丈を自在に制御できるようになり、二酸化炭素固定の促進や食糧増産などにも貢献できるだろう」と期待している

シロイヌナズナの発芽3週後の草丈比較。左端が野生型、中央と右端がBSS1タンパク質の発現が高くて、茎が短くなった変異体と遺伝子組み換え体、それぞれの拡大写真。

写真1. シロイヌナズナの発芽3週後の草丈比較。左端が野生型、中央と右端がBSS1タンパク質の発現が高くて、茎が短くなった変異体と遺伝子組み換え体、それぞれの拡大写真。
BSS1と緑色蛍光タンパク質の細胞内の顕微鏡写真。ブラシノステロイド欠損(Brz処理)で見られるBSS1の「集合」と、ブラシノステロイド添加(BL処理)で見られるBSS1の「拡散」。
写真2. BSS1と緑色蛍光タンパク質の細胞内の顕微鏡写真。ブラシノステロイド欠損(Brz処理)で見られるBSS1の「集合」と、ブラシノステロイド添加(BL処理)で見られるBSS1の「拡散」。
今回の研究でわかったBSS1タンパク質の機能発現の仕組み
図. 今回の研究でわかったBSS1タンパク質の機能発現の仕組み
(いずれも提供:理化学研究所)

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