南海トラフ付近に稠密に展開したハイドロフォン(水中の音波を高感度で検知する装置)のデータを解析して、音響レーリー波という波動によって沈み込み帯付近の海洋と地殻が毎日ごくわずかに振動していることを、海洋研究開発機構の地震津波海域観測研究開発センターの利根川貴志(とねがわ たかし)研究員らが世界で初めて発見した。この音響レーリー波が進む方向と発生場所を調べて、南海トラフで微小地震がたくさん起きている領域から放出されていることも突き止めた。地震研究に新しい視点を提示する発見として注目される。1月30日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
地球は大気や海洋の乱れで常時振動している。大気や海洋の流体の乱れが常に固体の地球をたたくことで生じ、常時地球自由振動と脈動がある。ただ、これらの振動は周期が長く、非常にゆっくり動くため、人が感じることはない。今回の発見で地球の新しい常時振動として、周期がより短い音響レーリー波が加わった。この振動は海域だけで観測される。
研究グループは、2011年9月〜12月に南海トラフを南北に横切る4測線と東西に伸びる1測線の海底に設置した約150観測点のハイドロフォンのデータに、ノイズの中から埋もれた振幅の小さい波動を抽出する地震波干渉法を適用し、常時振動の存在を探した。この結果、これまで知られていた常時振動より短い周期0.5?1.4秒で、音響レーリー波が伝わっていることがわかった。ハイドロフォンを設置していた3カ月間、この波動は毎日観測できた。音響レーリー波が伝播する深さ(場所)を理論的に計算したところ、海中と地殻内の堆積層であることが判明した。
さらに、この波動が伝わる方向を調べた。南海トラフの東側では、トラフ軸付近から北と南向きに波動が伝わっており、西側ではトラフ軸の北側の紀伊半島付近では南北方向、トラフ軸の南側では南向きにのみ波動が伝わっていた。この波動の進む方向とこの付近で発生している地震の震源分布を比較すると、マグニチュード(M)3以下の微小地震がたくさん起きている場所から音響レーリー波が放出されており、地震が音響レーリー波を発生させていることと符合した。
この音響レーリー波は減衰しにくく、伝播速度が遅いという性質があるため、「微小地震がたくさん起きることで定常的に音響レーリー波が存在する」と結論づけた。コンピューターの数値シミュレーションでも、地震が音響レーリー波を励起することが裏付けられた。
世界中の沈み込み帯でこれほど稠密に展開された観測網はなく、海溝やトラフ付近で観測されたノイズのデータに地震波干渉法を適用して常時振動の存在を確かめたのは初めてだった。これまでの研究では、常時振動を発生させる要因は流体のみと考えられてきたが、今回の研究で、地震もその要因となり得る新事実がわかり、定説は覆された。
利根川貴志研究員は「音響レーリー波は、大地震で一時的に起きて、長距離を伝わることが知られていたが、微小地震による常時振動として毎日観測されたのは初めてだ。微小地震の頻度に伴って微妙に変動はしているが、毎日続いているので、常時振動といえる。世界中のほかの沈み込み帯でも、微小地震がよく起きている海底では、どこでも発生しているのではないか。南海トラフ以外の海洋でも調べたい。この新しい常時振動は地下構造を探るのに役立つだろう。南海トラフ域の地震活動を監視する新しい観測手段として活用できるか、その可能性も検討したい」と話している。
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