肺がんの悪性化に関わる新しい分子レベルの仕組みを、国立がん研究センター研究所の江成政人(えなり まさと)ユニット長らがヒトの肺がん細胞の培養実験で見いだした。周辺の間質細胞が、肺がん細胞から分泌される因子でがん抑制因子p53を失活し、膜タンパク質や分泌因子が発現して、肺がん細胞の増殖能や浸潤能が上がって進展させるというもので、肺の間質細胞を新しい治療標的として浮かび上がらせた。12月30日付の米科学アカデミー紀要に発表した。
肺がんは日本で死亡者数が最も多く、治りにくいがんのひとつだ。その仕組みの解明は、治療法を改善して生存率を向上させるのに欠かせない。肺がんの進展には、肺がん細胞やその周囲の間質細胞で、がん抑制遺伝子p53の失活が関与していることがこれまで示唆されていたが、詳しい仕組みは謎だった。研究グループは、肺がんと間質の相互作用に着目し、ヒトの肺がん細胞と、間質にある線維芽細胞を混ぜて培養し、がん進展の実体を調べた。
まず、肺がん細胞から分泌される因子で、がん周辺間質の主要な細胞である線維芽細胞のがん抑制因子p53の発現が抑制されることを確かめた。そして、線維芽細胞はp53発現低下で、肺がん細胞の周りにある活性化型の線維芽細胞に似た形質を獲得することを突き止めた。p53発現が低下した線維芽細胞では、膜タンパク質のテトラスパニン12(TSPAN12)が増加し、線維芽細胞と接触する肺がん細胞の浸潤能と増殖能を促進していることもわかった。
さらに、TSPAN12は、慢性炎症を起こす分泌性因子のケモカインの一種であるCXCL6の発現を誘導し、肺がんを進展させる可能性を示した。逆に、TSPAN12 かCXCL6の発現を低下させると、肺がん細胞の浸潤能や増殖能を高める間質の線維芽細胞の作用を阻害することを実証した。 TSPAN12とCXCL6が協調的に肺がん細胞に影響を及ぼして、肺がん細胞が悪性化するというシナリオが描けた。
江成政人ユニット長は「今後、TSPAN12やCXCL6はがん周辺の間質の有用な治療標的となり得る。これらのタンパク質に対する抗体などが、既存の抗がん剤との併用で治療効果をもたらすことが期待される。肺がんで間質の線維芽細胞との関連が分子レベルでここまでわかったのは初めてで、新しい治療戦略になる。肺がん細胞が間質の線維芽細胞に働きかける物質も探ってみたい」と話している。
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- 国立がん研究センター プレスリリース