便秘症の治療薬のルビプロストンに慢性腎臓病の進行を抑える効果があることを、東北大学大学院医学系研究科の阿部高明(あべ たかあき)教授らがマウスの実験で見いだした。慢性腎臓病に新しい仕組みの薬が生まれる可能性を示す発見で、臨床応用が期待される。慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)の福田真嗣(ふくだ しんじ)特任准教授、曽我朋義(そが ともよし)教授らとの共同研究で、12月18日付の米腎臓学会誌 Journal of the American Society of Nephrology オンライン版に発表した。
慢性腎臓病は腎臓の機能が徐々に低下していく。進行を十分に抑制することが難しく、人工透析の患者が全国で30万人を超えて増え続けている。人工透析に入るのを防ぐことが急務だ。腎臓病で蓄積する種々の尿毒素のうち、最も悪い作用をするといわれているインドキシル硫酸などの産生には腸内細菌叢が関わることが知られていた。さらに近年、慢性腎臓病では、腸内細菌叢を含む腸内環境全体が悪い方向に変化していることも明らかになっていた。これらの事情から、研究グループは慢性腎臓病の新しい治療ターゲットとして腸内環境および腸内細菌叢に注目した。
腸内環境を変化させる薬剤として、便秘症の下剤として昨年から使われているルビプロストンの効果を検討した。ルビプロストンは腸管内の塩素イオンチャンネルを活性化させて、腸液の分泌を増加させる作用があり、腸管内容物の移動を促すため、便秘症の薬になっている。慢性腎不全の状態にしたマウスにルビプロストンを経口投与して、腎臓病の進行が抑制されるかを検証した。
その結果、ルビプロストンを投与した腎不全マウスでは、投与していないマウスに比べて腸液の分泌が増え、腎不全時における腸壁の悪化が改善されていた。また、次世代シークエンサーで腸内細菌叢を解析したところ、腎不全マウスでは 、善玉菌と呼ばれるような腸内細菌種が著しく減少していたが、ルビプロストン投与でこの善玉菌の減少が抑えられることが明らかになった。
さらに、電気泳動と質量分析を組み合わせた最新の装置で、腎不全時に血液中に蓄積する尿毒素などの代謝物濃度を網羅的に測定した。ルビプロストンを投与したマウスでは、腸内細菌に由来する尿毒素物質の血中濃度が減少していた。これらの結果から、ルビプロストンは腸内環境・腸内細菌叢の変化を介して、尿毒素の蓄積を減少させ、慢性腎臓病の進行を抑制すると考えられる。
阿部高明教授は「腸管は尿、血液透析と並ぶ“第3”の尿毒症物質排泄経路であることがはっきりした。便秘症薬のルビプロストンが、慢性腎臓病の新薬として適用できる可能性は大きい。国内外で特許も申請した。今後、人への応用に向け、副作用の少ない低容量で、腸で溶ける製剤の開発や、ルビプロストンの効果がある腎不全患者の選び方などを検討して、実際の腎臓病患者への治療薬として使えるようにしたい」と話している。
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