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磁気(スピン)流の増大原理を初解明

2014.12.10

 次世代の電子技術の担い手として磁気の流れ(スピン流)に期待が高まっている。そのスピン流を使ったデバイスの基本となるような現象が見つかった。スピン流が増大する原理を、慶應義塾大学理工学部の安藤和也(あんどう かずや)専任講師らが世界で初めて解明した。現在のエレクトロニクスに替わる将来のスピントロニクスの基本原理になる可能性がある。12月9日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

 電子は電気と磁気の両方の性質を併せ持つ。電気の流れである電流のみを利用してきたエレクトロニクスに対し、スピン流を利用して次世代の省エネルギーデバイスを目指すスピントロニクスの研究が近年、世界的に進められている。スピン流の示す最大の特徴は、電流を流さない絶縁体中でも、マグノンと呼ばれる仮想的な粒子(スピンの波)を利用できる点にある。マグノンをうまく使えば、新原理のデバイスを生み出せると期待されている。

 研究グループは、絶縁体から金属へと流れ出すスピン流とマグノンの寿命を同時に精密に測定した。まず、絶縁体の磁性ガーネット薄膜の高品質表面に、金属の白金薄膜を接合して、実験に使った。絶縁体の磁性ガーネットから白金に流れ出すスピン流の大きさとマグノンの寿命を同時に測定した。マグノンの励起周波数を小さくしていくと、スピン流量とマグノンの寿命がともに増大し、強い相関があることを突き止めた。

 スピンの波であるマグノンは、数百ナノ秒(ナノは10億分の1)の有限の寿命を持っている。寿命の長いマグノンを作り出せば、白金に流れ出しているスピン流も増大する可能性は理論計算で予想していた。絶縁体よりも金属のほうがマグノンの寿命やスピン流を測りやすいため、白金をスピンの検出素子として使った。予想した通りに、スピン流の大きさが絶縁体中のマグノンの寿命によって決定されていることを初めて実証した。

 安藤和也専任講師は「半世紀後にはスピンをベースとした電子技術の時代がくる。それには、既存の電子技術とは異なる新原理の構築が欠かせない。スピン流をベースとした電子デバイスの実現には、効率的にスピン流を作り出す技術が必要となる。今回発見した基本原理は、それに本質的な知見を与える。金属・半導体・絶縁体といったあらゆる物質を舞台とした次世代電子技術の基盤になるだろう」と意義を強調している。

スピン流とスピンの波(マグノン)の模式図
図1. スピン流とスピンの波(マグノン)の模式図
観測されたスピン流の増大現象とマグノンの寿命。(a)測定に用いた磁性ガーネット/白金の接合におけるスピン流の変換の模式図。(b)絶縁体の磁性ガーネットと白金からなる接合におけるスピン流の測定結果。(c)マグノンの寿命の測定結果。(b)のようにスピン流の増大現象が観測された条件で、マグノンの寿命が約200ナノ秒から320ナノ秒に延びていることがわかった。
図2. 観測されたスピン流の増大現象とマグノンの寿命。(a)測定に用いた磁性ガーネット/白金の接合におけるスピン流の変換の模式図。(b)絶縁体の磁性ガーネットと白金からなる接合におけるスピン流の測定結果。(c)マグノンの寿命の測定結果。(b)のようにスピン流の増大現象が観測された条件で、マグノンの寿命が約200ナノ秒から320ナノ秒に延びていることがわかった。
(いずれも提供:安藤和也慶應義塾大学専任講師)

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