ゴムのように伸び縮みする酸化物ガラスの作製に、東京工業大学旭硝子共同研究講座の稲葉誠二(いなば せいじ)特任助教(現旭硝子)と伊藤節郎(いとう せつろう)特任教授(元旭硝子)、応用セラミックス研究所の細野秀雄(ほその ひでお)教授らが成功した。複数のアルカリ金属イオンを含むメタリン酸塩ガラスが230〜250℃でゴムに特徴的なエントロピー弾性を示すことを見いだして実現した。硬くて割れやすい酸化物ガラスはゴムにならないという常識を覆す発見で、新しい物性として基礎と応用の両面で注目される。12月1日の英科学誌ネイチャーマテリアルズのオンライン版で発表した。
研究グループは、柔軟な長い直鎖状分子からなる、有機ゴムに類似した構造の酸化物ガラスでエントロピー弾性の出現を探った。エントロピー弾性とは、外力によって結晶のように規則的に配列した分子が、エントロピー増大則に従って、元の不規則な状態(非晶質)に戻ろうとする際に生じる復元力で、ゴム、シリコーン、ポリウレタンなどで確認されている。この弾性を持つ材料に共通する構造上の特徴は、重合度が高く、柔軟性に富む直鎖状の高分子が、適度に架橋している点にある。
この知見を手がかりに、重合度や共有結合性の高い直鎖が互いに緩やかに引き合う柔軟な構造の混合アルカリメタリン酸塩ガラス「Li0.25Na0.25K0.25Cs0.25PO3」にたどり着いた。これを230〜250℃で引き伸ばして、直鎖を高度に配向させて急冷して、異方性ガラスを作った。その後、再び加熱すると、エントロピー弾性に特徴的な吸熱を伴いながら、最大35%も収縮し、元の無秩序な等方性ガラスの状態へ戻ることを確認した。この巨大な収縮の前後で体積はほとんど変わらなかった。
この酸化物ガラスは室温で一般のガラスと同様に透明だが、温度を再び上げていっても、液体にはならず、ガラス物性が不連続に変化する転移温度の210℃あたりから、ゴムのような弾性が現れ、弾性は230〜250℃で最大になった。室温で硬くて割れやすい酸化物ガラスも、構造を工夫すれば、高温でゴムのように伸び縮みする特性を発現できることを示した。ゴムなど弾性材料は耐熱性が弱いので、作製された酸化物ガラスのような高温領域での弾性は有用性があるとみられている。
研究した稲葉誠二さんは「エントロピー弾性の理論をよく考えて見いだした。室温で割れやすい酸化物ガラスで、ゴムのように伸び縮みする特性を発現できる現象を示したのは初めてだ。高温でも弾性が必要な防震用の部材として利用の可能性はある。この発見を出発点に、ゴム状ガラスの科学も進展させたい」と話している。
関連リンク
- 東京工業大学 プレスリリース
- 旭硝子 プレスリリース