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藻類の成分が潰瘍性大腸炎を抑制

2014.11.25

 潰瘍性大腸炎が急増しており、その予防や治療が大きな課題になっている。褐藻類のシワヤハズの成分のゾナロールが潰瘍性大腸炎を抑制することを、東京工科大学(東京都八王子市)の佐藤拓己(さとう たくみ)教授らがマウスの実験で発見した。難病の潰瘍性大腸炎の新しい予防や治療につながる可能性がある。東京海洋大学の小山智之(こやま ともゆき)准教授と産業医科大学の山田壮亮(やまだ そうすけ)講師との共同研究で、米オンライン科学誌プロスワン11月19日号に発表した。

 潰瘍性大腸炎は、原因不明で炎症反応の暴走が起こり、大腸に広範な潰瘍が起こる病気で、1970年代以降急増して、患者数は2012年現在14万人を超えている。メザラジンやステロイド、抗TNFα抗体などの治療薬はあるが、効果がない場合は、大腸の切除や人工肛門造設の外科治療も必要で、新薬の開発が期待されている。研究グループはまず、さまざまな海産物の中で抗炎症作用の強いものを探し、褐藻類のシワヤハズを見いだした。

 シワヤハズの成分で、抗炎症作用が最も強い化合物はテルペノイド・ゾナロール(ゾナロール)だった。このゾナロールに着目して、潰瘍性大腸炎への効果を調べた。マウスに、潰瘍性大腸炎を起こしやすくする化合物とともにゾナロールを11日間経口投与したところ、大腸の潰瘍はほぼ半減した。試験管内のマウス細胞の培養実験でも、ゾナロールは炎症反応を明白に抑えた。さらに、この作用は、ゾナロールがストレス応答の鍵を握る転写因子Nrf2の活性化に作用し、過剰な炎症作用を抑制して、潰瘍の発生を減らすという仕組みを確かめた。

 シワヤハズは日本や台湾などの北西太平洋の海岸に広く分布し、コンブやワカメなどと同じ褐藻類だが、散在性が強いため、まだ産業化されていない。また、強い抗炎症作用があるゾナロールは、褐藻類では、シワヤハズでしか見つかっていない。

 佐藤拓己教授は「褐藻類シワヤハズの成分が、潰瘍性大腸炎の予防や治療、再発の防止などに応用できる可能性が出てきた。作用の仕組みが分子レベルでわかったのも意義がある。シワヤハズ藻体には毒性はなく、マウスの実験でもゾナロール投与による顕著な副作用はなかった。製薬会社や食品会社と連携しながら、医薬品や健康食品への応用、新たな治療法の開発などを目指したい」と話している。

海藻由来のシワヤハズとその成分のゾナロールの構造
図1. 海藻由来のシワヤハズとその成分のゾナロールの構造
ゾナロールの作用の仕組み
図2. ゾナロールの作用の仕組み
(いずれも提供:東京工科大学)

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