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動物が温度感じる基本解明、低温も好む

2014.11.20

 動物が感知した温度情報を脳に伝えて適切な行動をとるための仕組みを、京都大学大学院理学研究科の井上武(いのうえ たけし)特定助教と阿形清和(あがた きよかず)教授らがプラナリアで明らかにした。プラナリアは生物にとって不利な環境と考えられてきた低温を好み、生存戦略として利用している可能性も見いだした。外部刺激のうち、生物の生存に重要な温度をどう感知しているのかという基本問題の解明につながる発見といえる。11月19日に米科学誌The Journal of Neuroscienceオンライン版で発表した。

 環境温度がわずかに変動するだけでも、多くの生物の行動様式や生存、生殖戦略に影響する。特に、変温動物では、温度に的確に反応することは重要だが、温度を感知する仕組みが、進化の過程でどのように獲得されてきたかは謎だった。原始的な変温動物のプラナリアは、温度変化によって、自切(無性生殖の分裂)頻度、体のサイズ、有性生殖への転換など多様に変動することが知られており、温度と生物の関係を調べるのに適している。

 研究グループはまず、動物界で広く保存されているTransient Receptor Potential(TRP)ファミリーのタンパク質、DjTRPMaに着目して、プラナリアの温感神経細胞を見つけた。この温感神経はプラナリアの全身に分布しており、その温感の信号が脳に送られることを確かめた。次に、脳のどの神経細胞が、温度情報を処理しているかを阻害剤の実験で調べたところ、セロトニン神経細胞が働いて運動神経に指令を出していることを突き止めた。

 「この仕組みは、多くの動物で利用されている温度感知システムの原型」と、研究グループはみている。さらに、ヒトも含めて動物は一般に低温を嫌うが、プラナリアは反対に、動きが低下する低温のほうに自ら進んで移動することがわかった。低温好みは、これまでに知られている動物の温度に対する反応として初めての発見という。

 実験した井上武さんは「この研究で初めて温度を感じる神経系の基本が浮かび上がった。これまで、低温は生物にとって不利と考えられてきたが、低温で代謝を低下させてエネルギー消費量を抑えたり、生殖様式を転換したりして、積極的に低温を利用している可能性が出てきた。動物は進化の過程で最初に低温を感じて、恒温動物になるに伴って、高温の感知システムも獲得したというシナリオが描ける」と話している。

プラナリア(体長1〜2センチ)は好冷性の行動をする。この行動は、全身の温感神経と脳のセロトニン神経によって制御されていることがわかった
写真. プラナリア(体長1〜2センチ)は好冷性の行動をする。この行動は、全身の温感神経と脳のセロトニン神経によって制御されていることがわかった。
温度刺激に対してプラナリアが行動をとるための神経経路
図1. 温度刺激に対してプラナリアが行動をとるための神経経路
生物に不利と考えられる低温も利用価値のある可能性が、プラナリアの研究で出てきた
図2. 生物に不利と考えられる低温も利用価値のある可能性が、プラナリアの研究で出てきた

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