酵素によるバイオ発電技術を利用して、体に貼ると微弱な電流が発生し、皮膚を通した薬の浸透が促進される「バイオ電流パッチ」を、東北大学大学院工学研究科の西澤松彦(にしざわ まつひこ)教授らが開発した。このバイオ電流パッチは、生体や環境に優しい有機材料のみで作られており、軽く、薄く、柔らかい。使用後は、そのままゴミ箱に捨てることができる。皮膚への薬剤や化粧品の浸透を促す簡便で効率的な方法として使われそうだ。11月17日にドイツ科学誌Advanced Healthcare Materialsオンライン版に発表した。
皮膚の表面からの薬などの投与は広く普及している。有効成分の皮膚内への浸透が、数十マイクロアンペアの微弱電流で数倍〜数十倍に加速される効果が認められており、局所麻酔剤の高速投与、美肌成分や発毛・育毛成分の浸透促進に利用されてきた。微弱電流に伴って生じる組織液の流れに乗った薬物浸透の結果で、イオントフォレシスと呼ばれる現象だ。しかし、電流を流す特別な装置が必要なため、家庭での個人使用には適していない。
研究グループは、酵素を炭素繊維の布に固定した電極をゴム製の抵抗で連結して、パッチを作った。糖分と鎮痛剤などを含むハイドロゲルと組み合わせて皮膚に貼り付けると、電極の酵素が糖を酸化して、皮膚にイオン電流が流れ出すようにした。薬剤浸透への効果を検証するため、ブタの皮膚に1時間貼り付けた後、皮膚の断面を観察した。パッチにバイオ電流がある場合、鎮痛剤などの薬剤の浸透が大幅に促進されることを確かめた。
生み出せる最大電流は 0.3mA/cm2程度とごく微弱で、痛みを伴う可能性がある 0.5mA/cm2より小さく、安全性は高い。また、電流値は電極間のゴムの抵抗で調節できることも実証した。このバイオ電流パッチの出力は6時間以上続くため、寝ている間も使える。部品にゴムを含むため、伸縮性が高く、大きく動く関節部にもパッチとして利用できる。バイオ電流パッチの特許は内外で申請した。
西澤松彦教授は「材料は有機物で安く、使い捨てパッチとして実用化しやすい。酵素の発電と、薬が微弱電流で効率よく浸透することはわかっていた。両方の知見を組み合わせて1枚のパッチに押し込んだ。現在は、病院やクリニックでしか利用できない通電効果を自宅や職場でセルフケアに使える点で画期的だ。微弱電流で生じる皮下組織液の流れはマッサージやしわ取りにも有効で、多様なセルフケア用品への展開が期待される」と話している。
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