南海トラフで津波地震が巨大化しかねないとする研究成果を、東京大学大気海洋研究所の朴進午(パク ジンオ)准教授らがまとめた。南海トラフ沈み込み帯の浅部プレート境界断層(デコルマ)内部にある流体の分布が異なることを示した。南海トラフで発生すると予想されている巨大地震・津波発生モデルの構築や、防災・減殺対策に役立ちそうだ。11月17日付の米地球物理学連合の学術誌Geophysical Research Lettersのオンライン版に発表した。
東日本大震災では、地震に伴う断層滑りが、海底の浅いところにあるプレート境界断層に沿って海溝近傍まで至り、大津波が発生した。西南日本の南海トラフでも、浅いところにあるプレート境界断層の地震性滑りによる大津波の発生が懸念されている。研究グループは、海面近くで人工的に放出させた振動が海底下の地層境界で反射して海面に戻ってきた反射波を受振器で捉えた反射法探査のデータから、南海トラフの海底地下構造を探った。
その結果、プレート境界断層の反射極性が南海トラフの西から東にかけて負と正が繰り返され、東西500キロ以上にわたり5つの異なる領域に区分されることを見いだした。四国沖(負)、紀伊水道沖(正)、潮岬沖(負)、熊野沖(正)、熊野沖東部(負)の5領域である。深海掘削データを加えた詳しい解析で、反射極性が負の領域は境界断層が軟らかくて内部に水が入って、間隙水圧が高くてひずみがたまりにくい状態で、正の領域は境界断層に水が少なくてひずみがたまり、地震が起きやすい状態であることがうかがえた。
断層に流体が濃縮されて高い水圧が維持されていると、地震の滑りが断層面に沿って伝わりやすいとみられている。研究グループは「反射極性が正の紀伊水道沖か熊野沖で地震が発生する場合、地震性滑りが南海トラフ沿いに周辺の四国沖や潮岬沖、熊野沖東部に波及して巨大な津波になる恐れがある」という説を提唱した。政府の地震調査委員会は、南海トラフ沿いで30年以内にマグニチュード8〜9級の巨大地震が発生する確率を70%程度とみている。
朴進午准教授は「南海トラフで津波の規模を予想するのに、沈み込み帯の浅部プレート境界断層のデータを取り入れる必要がある。プレート境界断層の内部に存在する流体の分布が異なるため、津波地震が巨大化しやすいというのは新しい視点だ。プレート境界断層の観測を強化し、継続することが望ましい」と話している。
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