ニュース

細胞の体内時計と分化の関連を発見

2014.11.11

 細胞内にある体内時計は細胞の分化と密接に関連することを、京都府立医科大学の八木田和弘(やぎた かずひろ)教授と梅村康浩(うめむら やすひろ)助教らがマウスの胚性幹細胞(ES細胞)の実験で見いだした。細胞分化の制御因子が関わる体内時計の発生と、マウスES細胞での体内時計阻害の仕組みをそれぞれ解明した。

 哺乳類の発生、分化と体内時計というふたつの普遍的な細胞機能を関連づけ、体内時計の活用法に道を開く発見として注目される。米テキサス大学のジョセフ・タカハシ教授、医薬基盤研究所の安原徳子(やすはら のりこ)研究員らとの共同研究で、11月10日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。

 哺乳類で体内時計は、司令塔である脳内の視交叉上核とは別に、受精卵からの発生を通して全身の各細胞で形成されると考えられていたが、その仕組みは謎だった。研究グループはこれまで、マウスのES細胞に体内時計のリズムが見られず、培養して分化を誘導すると、約24時間周期の体内リズムが形成されることを示していた。

 細胞の体内時計は、時計遺伝子と呼ばれる十数個の遺伝子群によって24時間周期のリズムを生み出している。研究グループは、これら時計遺伝子の発現をホタル由来の発光で可視化し、発光の強弱の変化を測定して、生きたまま培養細胞の体内時計を計測できるようにした。この手法で、遺伝子を改変したマウスES細胞の分化に伴う体内時計形成を調べた。

 細胞分化に関連するDNAメチル化を制御するDNAメチル基転移酵素1の欠損ES細胞や、がん遺伝子のc-Myc発現誘導ES細胞では、培養しても体内時計が形成されず、正常な細胞分化もしなかった。次に、未分化のES細胞も含めて、これら体内時計リズムがない細胞に共通する現象を解析したところ、周期的に細胞の核の中に蓄積されるはずの「ピリオド」(PERタンパク質)が細胞質内にとどまり、核内蓄積が起きなかった。

 このPERタンパク質は体内時計のリズム発振に欠かせない。ES細胞でまったくリズムが刻めない理由のひとつは、ピリオドの核内蓄積の欠如だったのだ。さらに、この現象を制御する因子を、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析で調べ、鍵となる遺伝子を見つけた。この遺伝子は細胞分化の制御に必須の役割を果たしており、体内時計の発生と細胞分化の切っても切れない深い関係の根拠を初めて突き止めた。

 八木田和弘教授は「体内時計と分化の関連は細胞生物学に新しい視点を提供する。胎児や幼児の心身発達、がんとも細胞の体内時計は絡んでおり、この発見は治療などの応用面でも新しい手がかりになるだろう」と話している。

哺乳類での体内時計発生の概要
図1. 哺乳類での体内時計発生の概要
細胞分化制御と密接に関連する体内時計発生の仕組み
図2. 細胞分化制御と密接に関連する体内時計発生の仕組み
(いずれも提供:京都府立医科大学)

ページトップへ