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すごいぞ、マウス丸ごと透明化に成功

2014.11.07

 技術が発達すれば透明人間も可能になるのだろうか。マウスを全身丸ごと透明化し、細胞をひとつずつ識別して立体的に観察する新技術を、理化学研究所生命システム研究センターの上田泰己(うえだ ひろき)コア長、東京大学医学部の田井中一貴(たいなか かずき)講師、久保田晋平(くぼた しんぺい)日本学術振興会特別研究員らが開発した。マウス個体で遺伝子の働きや細胞ネットワーク構造を3次元データとして取得し、次世代の病理解析や解剖学の基盤技術になると期待される。11月6日の米科学誌セルに発表した。

 細胞が約350年前に顕微鏡で初めて発見されて以来、哺乳動物のような不透明な生物の個体全身を観察することは長年の課題だった。マウス個体(体長約10センチ、体重約30グラム)は約300億個の細胞から構成され、全身に複雑な細胞ネットワークが張り巡らされている。一方で、免疫疾患やがんなどはわずか1細胞の変化が細胞ネットワークを通じて生命システム全体に重大な結果をもたらす。

 研究グループは、個体全身を一つのシステムとして総合的に解析するため、全身の細胞ネットワークや遺伝子の働きを1細胞解像度で三次元画像として取得するためのイメージング技術の開発に取り組んできた。組織に多い脂質を取り除く透明化試薬を作り、マウスの脳の透明な立体画像を取得できることを今年4月に報告している。

 この透明化試薬はアミノアルコールと尿素、界面活性剤トリトンXからなる。個体全身の透明化には、脂質の除去と屈折率の均一化に加え、血液中の赤色色素ヘムなどの生体色素の脱色が必要になる。研究グループは、マウスの脳に使った透明化試薬が血液を効率的に脱色することを見いだした。試薬の中のアミノアルコールが血液中のヘムを溶出し、脱色する仕組みを確かめた。これまで数多くの組織透明化技術が試みられてきたが、体に残る血液などの生体色素を効果的に脱色できる手法はなかった。

 死んだすぐあとにマウスの個体を還流液で固定し、続いて透明化試薬を心臓から全身に循環させた。それから解剖して、心臓や肺、腎臓、肝臓などの臓器を透明化試薬に10日間浸した。マウス全身は皮膚を剥離して2週間浸した。この手順でいずれも、丸ごとの透明化に成功した。さらに透明化した臓器や個体の立体画像を特殊な蛍光顕微鏡で観察すると、細胞ひとつひとつの短波悪質や遺伝子のデータを取得できた。

 その解剖学的な病理解析例として、インスリンを分泌するすい臓のランゲルハンス島の体積と総数が、糖尿病マウスで大きく減少していることを確認した。透明化技術と免疫染色法を組み合わせて、臓器丸ごとを免疫組織化学的な解析に適用できることも示した。上田泰己コア長らは「この透明化技術で『個体レベルのシステム生物学』の実現に一歩近づいた。生物学や医学に大きく貢献するだろう」と指摘している。

 研究グループの田井中一貴講師は「全身には血液色素が残るので、透明化は難しいが、われわれの透明化試薬が血液色素を脱色できることがわかって研究が展開した。新しい手順で、各臓器や全身の丸ごとの透明化技術を確立した。体の中の細胞同士のつながりの構造や機能を詳しく探るのに役立つ。ヒトの場合は、骨を透明化するという課題があるが、病気の原因を解明するためにも、ヒトの臓器も透明化の対象になるだろう」と話している。

マウス全身の透明化、左は幼児マウス、右は成体マウス
写真1. マウス全身の透明化、左は幼児マウス、右は成体マウス
マウス臓器丸ごと3次元透明化と免疫染色、上が胃、下が腸管
写真2. マウス臓器丸ごと3次元透明化と免疫染色、上が胃、下が腸管
(いずれも提供:理化学研究所)

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