昆虫には「匠の技か」と驚かされる行動がある。翅(はね)を素早く収納し、展開するハネカクシもその代表例だ。そのハネカクシが翅を隠すように折りたたむ巧みな技の秘密を、東京大学生産技術研究所の斉藤一哉(さいとう かずや)助教らがハイスピードカメラの画像の解析で突き止めた。宇宙で展開する太陽電池から日用品の折り畳みまで、多様なデザインのヒントになりそうだ。九州大学総合研究博物館の丸山宗利(まるやま むねとし)助教らとの共同研究で、11月3日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。
ハネカクシは甲虫の仲間で、体長は1センチから数ミリ。翅を小さく折り畳んで、土や落ち葉の下の狭い隙間に入り込んで生活し、敵が出現したり生活範囲を広げたりするときには瞬間的に、翅を展開して飛び立つ。翅の折り畳み方は左右非対称なのが特徴。甲虫全体の15%に上り、ごくありふれた昆虫だ。研究グループは、ハネカクシの中でも飛ぶのが得意な海岸にいるオオアバタウミベハネカクシ(体長6ミリ)の翅の折り畳みと展開を1秒500コマのハイスピードカメラで撮影して解析した。
このハネカクシは柔軟に動く腹部を巧みに使って鞘翅の後翅を折り込んだ。折り畳み方は、左右の翅でそれぞれ異なり、左右ともに20ほどの折り線で畳まれて5分の1の面積に縮んだ。左右の翅を2枚重ねて同時に折り畳み、その間は1秒だった。翅は左右非対称にもかかわらず、左右どちらからでも折り畳めて、それぞれの収納状態で折れ線パターンも入れ替わることを見出した。ひとつの展開構造が2通りの収納構造に対応しているのは驚きの発見といえる。翅を開くのに要する時間は0.1秒で、さらに早業だった。
研究した斉藤一哉さんは「左右非対称な翅の2通りの折り畳みが、どのような材料、構造、幾何学で実現されているかはハネカクシ最大の謎で、今後解き明かしたい。この小さな虫が身につけた巧みな技は、効率的な収納、展開が必要な人工衛星の太陽電池パドルから、傘や扇子などの日用品まで、広範な工業製品に応用できるだろう」と話している。
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