福島県の土壌に多い粘土鉱物「バーミキュライト」は多量のセシウムを吸着して取り込む。その仕組みを、日本原子力研究開発機構の福島環境安全センターの元川竜平(もとかわ りゅうへい)研究副主幹と矢板毅(やいた つよし)ユニット長らが解明した。放射性セシウムの環境移行予測や汚染土壌の浄化、減容化の技術開発につながる可能性がある。
東京電力福島第一原発事故で大量の放射性セシウムに汚染した福島県の環境を回復させるのに有用な基礎知識になる。高エネルギー加速器研究機構の遠藤仁(えんどう ひとし)准教授、電力中央研究所の横山信吾(よこやま しんご)主任研究員、山形大学工学部の西辻祥太郎(にしつじ しょうたろう)助教との共同研究で、10月10日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
園芸用の土として広く販売されているバーミキュライトは福島県の土壌に多く存在している。厚みの薄いシート状の無機物が積み重なった構造を取っており、シートの隙間に陽イオンを取り込む性質を持っている。原発事故で放出された放射性セシウムのガスが阿武隈山地の山林や農地に降って、土壌中にしみ込み、セシウムイオンがバーミキュライトの層間に強く選択的に吸着されていることがわかっている。しかし、その詳しい仕組みは謎だった。
研究チームは、セシウムイオンがバーミキュライトに吸着したときに起きる構造変化を、X線小角散乱法で観察した。セシウムイオンの吸着はバーミキュライト中の特定の層の間に、ある程度まとまった集団として取り込まれることがわかった。1個のセシウムイオンが2つの層の間に吸着すると、その隣にもセシウムイオンが吸着しやすくなるため、同じ層に連続的に吸着し、結果として多量のセシウムが取り込まれることとなる。
多量のセシウムが取り込まれた後、比較的セシウムの取り込みの少ない層がはがれ、さらにはがれた2つの層の表面も新たな吸着サイトになる。こうしてドミノ倒しのように次々とセシウムイオンを吸着していく特異な性質がバーミキュライトにあることを突き止めた。このようにセシウムの吸着による粘土鉱物の構造変化を定量的に明らかにした報告は初めて。また、粘土鉱物の構造を分析する定量的な理論モデルの構築にも成功した。
研究チームの矢板毅ユニット長は「放射性セシウムが土壌中の一部の鉱物に集中的に吸着される仕組みを、福島の土壌に多いバーミキュライトで解明できた意義は大きい。この知見は除染や汚染土の容量を減らすことに活用できる。また、土壌中の放射性セシウムの将来の挙動を予測するのにも役立つだろう。原子力分野のみならず、環境科学、分析化学、材料科学、ナノ構造科学など多様な分野への応用が期待される」と話している。