毎年、梅雨の季節に中国大陸から飛来して西日本の水田で大被害を与えるトビイロウンカ。その害虫からイネを守る抵抗性遺伝子を、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)の田村泰盛(たむら やすもり)主任研究員と服部誠(はっとり まこと)研究専門員らが特定した。トビイロウンカに強いイネの品種づくりにつながる成果といえる。九州大学の安井秀(やすい ひでし)准教授と名古屋大学の吉岡博文(よしおか ひろふみ)准教授らとの共同研究で、7月29日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
イネの大敵のウンカは3種類ある。このうちトビイロウンカは時に水田のイネを一斉に枯らしてしまうほどの大被害を及ぼすことから、最も恐れられている。イネの栄養分を輸送する師管に針のような口を刺して、中を流れる栄養たっぷりの師管液を吸って枯死させる。現在の対策は農薬に頼っているが、2005年ごろから中国で農薬が効かないトビイロウンカが出現して、飛来するようになり、被害が深刻化した。農林水産省の調査によると、2013年には九州を中心に100億円以上の被害が出た。
研究グループは、インドで栽培されるイネが持つトビイロウンカ抵抗性のふたつの遺伝子BPH25とBPH26に注目した。今回、BPH26を分離した。その遺伝子を導入したイネに対して、トビイロウンカは針のような口を師管に刺すが、中の師管液を吸えずに餓死することを確かめた。この遺伝子導入イネはトビイロウンカと一緒に1週間育てても、枯れなかった。さらに、BPH26タンパク質の構造は、カビなどの病原菌に対するイネの抵抗性タンパク質とよく似ていた。
研究グループはもうひとつのBPH25遺伝子の分離にもめどをつけており、2、3年後には、両遺伝子をイネに組み込んで、トビイロウンカに強いイネ品種づくりに取り組む。田村泰盛主任研究員は「耐虫性イネを作成できれば、農薬を減らした低コストの環境保全型農業に貢献するだろう」と話している。
関連リンク
- 農業生物資源研究所 プレスリリース
- 九州大学 プレスリリース
- 名古屋大学 プレスリリース