ニュース

「化学の日」初の催しで鈴木章氏らが講演

2014.10.24

 10月23日は日本化学学会や化学工業会、日本化学工業協会、新化学技術推進協会の4団体が指定した「化学の日」。その週が「化学週間」。昨年決めたが、実質的な事業は今年から始まった。その初の催しとなる講演会が10月23日、東京都荒川区の開成学園の講堂で開かれ、日本化学会の前会長の玉尾晧平・理化学研究所研究顧問、日本化学工業協会会長の小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長、ノーベル化学賞受賞者の鈴木章・北海道大学名誉教授がそれぞれに化学の意義を熱く講演して、約500人の生徒たちを感動させ、鼓舞していた。

 「化学の日」の発案者の一人である玉尾晧平氏は、1モルの分子数が6.02×10の23乗とされるアボガロド定数にちなんで10月23日を「化学の日」としたことを紹介して「分子はこんなにすごい」と語り始めた。10年前から取り組んでいる「一家に1枚周期表」の運動に触れて「化学はセントラルサイエンス、すべての科学の基盤」「自然も暮らしもすべて元素記号で書かれている」と提起した。日本の底力を示したノーベル賞受賞者らの業績も元素記号で解説し、「資源問題も元素戦略で解決したい。科学(化学)が文化になることを願っている」と訴えた。

 小林喜光氏は「地球と共存する経営」と題して講演した。「日々、物質や材料をなりあいとして世の中と関わりの深い産業に携わる人間が何を考えているか」を率直に語った。イスラエルのヘブライ大学に留学した青春時代の放浪遍歴を振り返り、「本当の自分を見つけるために好きなことをやってほしい」と助言した。地球規模の人口増や温暖化、資源枯渇を指摘して「企業は社会に新しい技術、イノベーティブなものを出していく責任がある」として「イノベーションを起こす以外に、化学産業として生き延びる道はない」と強調した。求められる人材として「新しいコンセプトを自分でつくれる人」を挙げた。

 84歳の鈴木章氏は2冊の英文の教科書に魅了されて有機合成化学の道に進んだ話から講演を切り出し、炭素結合のクロスカップリング反応の触媒を開発した研究史を語った。1979年にホウ素有機化合物で反応が進むことを発見した際、恩師の米パデュー大学の故ハーバート・ブラウン教授が「鈴木カップリング」と名付けてくれたエピソードを紹介した。この鈴木カップリングはさまざまな医薬品や農薬、液晶材料に使われている。自らが受賞した2010年ノーベル賞の授賞式や晩餐会の写真を見せて「思いもよらないことだった。多くの共同研究者の努力に支えられた」と話した。最後に「日本は資源が乏しい国だ。若い人々にお願いしたい。ほかの国ではまねのできないような付加価値の高い物や機械を作ってほしい。化学だけではないが、若い諸君が科学や技術を大切にしてほしい」と締めくくった。

 3氏とも会場から質問にも丁寧に答え、現代版の「学問のすすめ」を示して、中学生や高校生たちに科学するこころの灯をともしていた。「化学の日」の最初の催しとして記念になる講演会だった。

「化学の日」講演会に臨む演者の(前列左から)小林喜光氏、鈴木章氏、玉尾晧平氏
写真1. 「化学の日」講演会に臨む演者の(前列左から)小林喜光氏、鈴木章氏、玉尾晧平氏=10月23日、東京都荒川区の開成学園講堂
写真2. 講演する玉尾晧平氏、小林喜光氏、鈴木章氏

ページトップへ