東日本大震災後の大きな地殻変動は誰もが気にしている。その研究で重要な成果が出た。2011年東北地方太平洋沖地震の発生後に継続して進行している地殻変動の要因として、「粘弾性緩和」という過程が重要な役割を果たしていることを、東北大学の災害科学国際研究所の日野亮太教授と大学院理学研究科の三浦哲(さとし)教授らが突き止めた。カナダ地質調査所(ビクトリア大学兼任)のケリン・ワン教授らとの共同研究で、9月18日付の英科学誌ネイチャーのオンライン版に発表した。
粘弾性緩和とは、震源域下深部のマントルが粘性をもつために、地震時変動の影響が時間の遅れを伴って発現し、地震に伴う応力変化を徐々に小さくする現象をいう。震源域の海底における地殻変動観測と、その観測結果に基づく数値シミュレーションに基づいて、この地殻変動の要因を解明することに成功した。この成果で、2011年の大地震の震源となったプレート境界断層の動きをより正確に把握することが可能となり、今後の大地震発生の予測にも貢献することが期待されている。
東日本大震災をもたらした2011年東北地方太平洋沖地震は、太平洋プレートの沈み込みによって蓄えられたひずみエネルギーを解放するために、プレートの境界面を断層面として巨大なすべりが起こって発生した。このマグニチュード9.0の巨大地震発生後、大規模な地殻変動が東北地方と太平洋海域で継続して観測されている。
こうした地震後地殻変動には、2011年の地震ですべったプレート境界面が再び固着を回復し、次の大地震の発生に向けてひずみエネルギーの蓄積が再開される過程が反映されているため、多くの研究者が注目している。研究グループは、大地震の震源の直上に位置する海域で海底地殻変動を観測し、その解析に基づいて解析した。
2011年3月の地震発生時に31mの東南東方向の水平変動が観測された震源域の海底で、地震発生後の2011年8月、10月、12年7月に観測を実施し、基準点が地震後ほぼ一定の速度で西北西の方向に移動している様子を捉えた。これは、地震時変動による移動方向(東南東方向)と全く逆向きで、陸上で観測されている地震後の地殻変動が地震時と同様に東南東方向なのと大きく違っていた。
数値シミュレーションで計算した結果、2011年の地震時変動によるマントルの粘弾性緩和で想定される地表面変形のパターンと符合し、実際に観測された地震後地殻変動をよく説明できた。粘弾性緩和の影響が時間とともに小さくなることも、観測されるデータを数値シミュレーションして再現できた。「マントルの粘弾性緩和の影響が地震後地殻変動の主因となるのは地震発生後数十年が経過した後」とされてきた従来の考え方を覆し、地殻の下にあるマントルの粘弾性緩和の影響を無視できないことを示した。
研究グループを率いる日野亮太教授は「2011年東北地方太平洋沖地震は規模が大きかったので、マントルの粘性によって応力が徐々に小さくなっていく粘弾性緩和の影響がすぐ直後に出ているといえる。あれだけ巨大な地震が起きて、行く末がどうなるか、誰もが関心を持っている。最も重要な情報源は地殻変動で、その物理的な解明がこれで一歩進んだ。巨大地震震源域の地殻変動の監視と理論は重要で、次の大地震の予測にも貢献するだろう」と話している。
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