チンバンジーのふたごそれぞれに対し、母親以外のおとなが世話をする行動を、京都大学霊長類研究所の友永雅己(ともなが まさき)准教授と聖心女子大学文学部の岸本健(きしもと たけし)准教授らが観察した。ヒトへの子育ての進化を考えるのに重要な発見といえる。
安藤寿康(あんどう じゅこう)慶応義塾大学文学部教授、高知県立のいち動物公園の多々良成紀(たたら せいき)園長と飼育スタッフの山田信宏(やまだ のぶひろ)さん、小西克弥(こにし かつや)さん、木村夏子(きむら なつこ)さん、鹿児島市平川動物公園飼育員の福守朗(ふくもり あきら)さんとの共同研究で、 9月10日の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
高知県立のいち動物公園のチンパンジー集団では、日本で唯一、二卵性双生児の自然哺育(人工飼育ではなく、母親による子育て)が続いている。研究グループは、この動物公園のチンパンジー集団(2009年4月生まれのふたごと15歳以上のおとな6個体)を11 年 4 月から 12 年 3 月まで 1 年間観察し、2 歳(ヒトでは4歳に相当)になった二卵性双生児のチンパンジー(男の子ダイヤ、女の子サクラ)に対し、母親のサンゴや、母親以外のおとなの女性たち、父親のロビンがどう関わるのかを調べた。
その結果、ふたごそれぞれに対して、母親以外のおとなによる世話行動が確認された。特に、女の子のサクラに対しては、ふたごとは血縁関係のない女性のチェリーが「背中に乗せて移動する」といった世話をするなど、授乳以外はすべて密接に対応していた。チェリーは、サクラの母親サンゴとは疎遠な女性だったが、サクラは母親から離れている時に、チェリーと一緒にいることが多かった。
この結果は、子育ては基本的に母親が一人で行う(まれに血縁のある個体も参加)というチンパンジーの従来の常識を覆した。一方、男の子のダイヤに対しては、母親のサンゴが女の子のサクラよりも手厚く保護していた。次いで、父親のロビンがよく世話をしていた。
こうした母親以外のおとなによるふたごへの世話行動が、母親サンゴの育児負担を減らし、ふたごの自然哺育の成功につながった可能性がうかがえた。ヒトの子育てには、父親や祖父母、保育士、近所の人など、母親以外の多くのおとなの関与が広く見られるが、チンパンジーによるふたごの子育てにも、母親以外のおとなが子育てに協力するという今回の結果は、社会的な子育て促進の条件を探るヒントになりそうだ。
研究グループの友永雅己京都大学准教授は「高知県立のいち動物公園の飼育スタッフがふたごを自然哺育した努力があって、この観察ができた。子好きのおばさんがいて、母親がほかの個体の関与に寛容で、子どもの側からの働きかけがあれば、母親以外の子育てはチンパンジーでも成立するのだろう。チンパンジーはヒトに近縁なので、ヒトにおける共同育児進化の条件の参考になる。その後も、観察を続けているが、5歳になった現在、女の子のサクラが親しかったチェリーと離れがちになるなど、集団内の関係は子どもたちの成長に応じてダイナミックに変化しているのも興味深い」と話している。
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- 京都大学 プレスリリース