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ジグザグ型エッジのグラフェンリボン作製

2014.09.16

 炭素原子が平面状に並ぶグラフェンの開発で新しい成果が生まれた。両端がジグザグ型エッジのグラフェンナノリボンの作製に、東北大学原子分子材料科学高等研究機構のパトリック・ハン助教と一杉太郎(ひとすぎ たろう)准教授らが初めて成功した。物性が優れたジグザグ型の登場は、グラフェンを活用した電子デバイスに向けての大きな一歩として注目される。同機構の浅尾直樹教授、ポール・ワイス教授、赤木和人准教授らとの共同研究で、9月12日付の米科学誌ACS Nanoオンライン版に発表した。

 グラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に並ぶ厚さ原子1 層分の物質で、電子移動度が高いため、透明導電膜や超高速トランジスタなどへの応用が有望視され、非常に活発な研究が世界中で展開されている。特に、細線(リボン)状にしたグラフェンナノリボンは、その両端のエッジの形状がジグザグ型かアームチェア型かで、電気伝導性や磁性などの物性が大きく異なると考えられている。アームチェア型は既にできているが、ジグザグ型の作製は極めて難しく、作り分けたうえで物性の違いを検証することができなかった。

 研究グループは、炭素原子が6個環状に連なるベンゼン環を計6個含む二臭化ビアントラセン化合物を銅基板上にばらまき、500℃で10 分間ほど基板の上で保った。すると、原料の二臭化ビアントラセン化合物が銅基板上で反応し、新しい物質が生成した。走査型トンネル顕微鏡で、生成した物質を観察したところ、ジグザグ型のエッジを持つグラフェンナノリボンができていることを確認した。銅基板の表面上に炭素原子が都合の良い方向に連なり、エッジ形状を制御するように、特異的な化学反応が起きていることがわかった。

 この成果で、グラフェンのエッジの形状による物性の違いを検証するなどの研究を進めることが可能となり、グラフェンを使った、高速で低消費電力の新規エレクトロニクスやスピントロニクスのデバイス創製につながると期待されている。

 研究グループの一杉太郎准教授は「銅基板の上でグラフェンを合成したのが鍵です。銅基板の結晶格子が重要な役割を果たして、ジグザグ型のグラフェンナノリボンが重合するように原料分子を配置してくれます。グラフェンナノリボンは高い電気伝導性と熱伝導性の特性から、集積回路の配線材料としての応用が考えられます。エッジのみに現れる強磁性状態を活用した新規デバイス(スピントロニクスデバイス)への展開も期待できます。今後、さまざまな長さ、幅、エッジ形状を有するグラフェンナノリボンを合成して、新規物性開拓と実用研究に取り組みたい」と話している。

写真. 銅基板上のグラフェンリボンの走査型トンネル顕微鏡写真(左)と、ジグザグ型エッジの拡大像(右)
写真. 銅基板上のグラフェンリボンの走査型トンネル顕微鏡写真(左)と、ジグザグ型エッジの拡大像(右)
図. ジグザグ型(赤線)とアームチェア型(青線)のエッジ構造
図. ジグザグ型(赤線)とアームチェア型(青線)のエッジ構造
(いずれも提供:東北大学)

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