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ハチドリの甘味受容体進化の謎を解明

2014.08.25

 花の蜜を主食とするハチドリが密の味を感知する仕組みを、東京大学大学院農学生命科学研究科の戸田安香(とだ やすか)研究員と三坂巧(みさか たくみ)准教授らが突き止めた。鳥類の祖先が失った甘味受容能をどのように獲得したかを解明したもので、動物にとって重要な味覚の進化を跡付ける研究として注目される。米ハーバード大学のグループとの共同研究で、8月22日付の米科学誌サイエンスに発表した。

 ハチドリは体重10グラムほどの小型の鳥で、北米大陸に300種以上もいて、花の蜜を食べるように多様に進化してきた。鳥類のえさはさまざまだが、花の蜜を食べる鳥は珍しい。糖を豊富に含む花の蜜を認識し、利用する能力を獲得したことが、ハチドリの大規模な種の拡散を可能にしたと考えられている。鳥類は進化の過程で、甘味を感知する甘味受容体を失っているのに、ハチドリが蜜の糖分をどう認識して好んで食べているのか、謎だった。

 研究グループはまず、異なる食性を持つ10種の鳥のゲノム配列から味覚受容体のT1R遺伝子を探索して解析した。ハチドリを含むすべての鳥類にT1R1とT1R3の遺伝子はあったが、甘味受容体を構成するT1R2遺伝子はなかった。鳥類の祖先である恐竜でT1R2遺伝子を欠失して、甘味をおいしく感じなくなったとみられている。また、糖分への嗜好性を示さないニワトリや、ハチドリに最も近縁で、昆虫を食べるアマツバメなどにはうま味受容体はあったが、甘味受容体はなかった。

 甘味を感じるハチドリでは、本来ならうま味受容体を形成するT1R1とT1R3の遺伝子が一部変化して、甘味受容体として機能していることを確かめた。この受容体が認識する甘味物質は、ハチドリが実際に好むものと一致することも見いだした。さらに、ニワトリのT1R3の細胞外領域の19個のアミノ酸残基をハチドリのアミノ酸残基に変えると、甘味物質に応答することを実証した。この19個のアミノ酸残基は味物質との結合に関わる部位だとわかった。受容体の複数の変異がハチドリに甘味受容体をもたらしたと推定できた。

 解析結果をまとめて、研究グループは「ハチドリは4200万〜7200万年前に昆虫を食べる祖先から分岐したあと、味覚受容体の機能を変化させて、長い時間をかけて、甘味受容体を獲得し、さまざまな花の蜜を食べる能力を発展させた」とハチドリ進化のシナリオを描いた。

 三坂巧准教授は「動物が口の中でおいしいものを認識する受容体は意外に少なく、甘味とうま味が1個ずつしかない。ハチドリはまったく新しい受容体を得たのではなく、別のうま味受容体を甘味受容体に変えることによって、えさを変え、行動も変化させて、木の上の花の蜜を主食とする生活を実現した。今回の発見は、動物が新しい感覚や、それに伴う新しい行動を獲得していく進化を解く新しい手がかりになる」と話している。

ハチドリT1R3の細胞外領域の分子モデル。甘味物質の受容に寄与した19個のアミノ酸残基は黄色、緑色、赤色で示す3つの領域に分かれて存在していた。黒色のアミノ酸残基は、推定の味物質結合部位を示す。
図. ハチドリT1R3の細胞外領域の分子モデル。甘味物質の受容に寄与した19個のアミノ酸残基は黄色、緑色、赤色で示す3つの領域に分かれて存在していた。黒色のアミノ酸残基は、推定の味物質結合部位を示す。

 

(提供:東京大学)

 

ハチドリを用いた行動実験。ハチドリは水よりも糖や糖アルコールの溶液を好んで摂取した。
写真. ハチドリを用いた行動実験。ハチドリは水よりも糖や糖アルコールの溶液を好んで摂取した。

 

(撮影:Maude W. Baldwin)

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