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研究倫理教育プログラム策定へ討論

2014.07.30

 研究不正問題が深刻化する中で、研究倫理教育プログラムに関する学術フォーラムが7月29日、日本学術会議講堂(東京・六本木)で開かれた。猛暑の午後にもかかわらず、研究者ら300人以上が参加し、研究不正対策への関心の高さをうかがわせた。主催は日本学術会議、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会で、この4者が協力して今年2月から策定している初の研究倫理教育プログラムなどについて討論した。不正には罰則の強化ではなく、研究機関の責任で不正防止を徹底する必要性が多数の演者から指摘された。

 大西隆日本学術会議会長の開会あいさつの後、浅島誠日本学術振興会理事は趣旨説明で「科学が健全な発展によって、より豊かな人間社会の実現に寄与するには、研究者がその行動を自ら律するための研究倫理を確立する必要がある」と研究者の自律を訴え、「各分野に共通する研究倫理を教育するための標準的な研修プログラムを作成した」と内容を紹介した。

 研修プログラムは9章で構成され、研究上の責任や成果を発表する責任、研究費の適切な使用、社会の中で科学者が果たすべき役割など多岐にわたる構成になっている。8月中にもテキスト版を公開し、今年中に電子教材を作成する予定で、広く使えるようにする。浅島誠さんは、ねつ造を理由とする論文撤回が世界中で1975年から2012年に10倍に増えており、米国やドイツ、日本などの先進国でも多いことを報告した。

 文部科学省科学技術・学術政策局の川上伸昭局長も、研究不正や研究費の不正使用が相次いで発生していることに危機感を表明し、新たな「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」案について解説した。不正行為への対応を個人に委ねるだけでなく、大学などの研究機関が責任を持って不正行為の防止に関わるよう対策を強化したのが特徴で、文部科学相が近く正式に決定して、来年4月から適用を開始する。研究倫理教育の標準的なプログラムや教材の作成を推進することも強調した。

 日本学術振興会の渡邊淳平理事は「以前のように師の背中を見て学ぶだけでは不十分で、論文の作法も含めた教育研修が必要」と語り、日本学術会議の小林良彰副会長は「研究不正は罰則強化に目が行きがちだが、いかにして事前に防止するかを考えたい。オールジャパンで研究倫理教育プログラムを作り、科学者が自律的に規範を遵守して科学への信頼を確立し、過剰な干渉を受けることなく、科学の独立性を保とう」と呼びかけた。

 研究者倫理研修プログラムに詳しい市川家國信州大学特任教授は、世界の論文撤回数が2000年以降に急増し、各国の対策もそのころから始まったことを明らかにした。研究不正発生率は欧州で低く、アジアで高い、日本はアジアの平均にあるというデータも示した。多様な研究不正や不適切な行為を防ぐための倫理学習の重要性を指摘し、告発を不正防止の有効な手段と位置づけた。さらに、教育研修プログラムの国際性と世界「均てん化」を提言した。笠木伸英東京大学名誉教授は「社会の中で科学者が果たすべき役割」について詳しく報告した。

 後半は、小林良彰さんの司会でラウンドテーブルが開かれた。文部科学省の松尾泰樹大臣官房参事官は「罰則を強化することでなく、アカデミー独自の取り組みとして自浄をしっかりやっていただきたい」と求めた。8割の大学で学生に研究倫理教育を実施していないという調査結果も示した。浅島誠さんはここ数年、研究不正に関する国際会議に参加してきた経験を基に「世界は積極的に研究不正をなくす方向に動いている。そこでは教育が重視されている。若い人だけでなく、指導的な立場の人も倫理研修を受けてほしい」と話した。

 市川家國さんは「倫理教育すると『おれは関係ない』という人が多い。倫理教育の教材は皆さんに問題を気づいていただくきっかけになる」と語った。参加者からの質問に対して、相原博昭東京大学副学長は大学の使命に触れ「全体の教育の中で高い倫理観がしみ渡るようにしたい」と答えた。研究不正防止では、大学や研究機関の責任が強まり、役割が大きくなった。「倫理教育も含めて研究倫理を醸成していくべきだ」との認識で討論者の意見はほぼ一致した。閉会あいさつで大竹暁・科学技術振興機構理事は「科学と科学者も社会の中にある。研究不正は社会の信頼を失わせる。総力を挙げて防止に取り組まないといけない」と締めくくった。

いっぱいに参加者が集った学術フォーラム「研究倫理教育プログラム」
写真1. いっぱいに参加者が集った学術フォーラム「研究倫理教育プログラム」=7月29日、日本学術会議講堂
ラウンドテーブルで議論する講演者ら
写真2. ラウンドテーブルで議論する講演者ら

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