熱中症死亡者の増加は、最高気温が35°Cを超える猛暑日数と強く関係しており、その猛暑日数の変動には太平洋熱帯域のラニーニャやインド洋ダイポールモード現象が関わっていることを、海洋研究開発機構アプリケーションラボの森岡優志(ゆうし)研究員と高谷清彦(たかや あきひこ)元東京大学研究生らが明らかにした。熱中症の発生に熱帯域の気候変動現象が間接的に関連していることを示すもので、熱中症被害の予防対策にも手がかりを与えそうだ。7月10日付の英科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
研究チームはまず、関東地方の熱中症の死亡者数と気候変動の関係について、1980〜2010年の厚生労働省人口動態統計と気象観測データで解析した。最高気温が35℃を超える猛暑日に注目して分析したところ、死亡者が増えた1994年や2010年では猛暑日が平年より多く、死亡者が減った2003年は猛暑日が平年より少なかった。死亡者数と猛暑日数の相関係数は0.76と比較的高いことがわかった。
さらに、猛暑日数の変動の原因の一つとして、熱帯域の気候変動との関係について調べた。過去30年で、熱帯インド洋の東側で海面水温が平年より低くて西側で高くなる、正のインド洋ダイポールモード現象は6回発生した。そのうち3回(1983年、1987年、1994年)は関東地方の猛暑日数が平年に比べて多く、熱中症による死亡者数も増加していた。
一方、熱帯太平洋の東側で海面水温が平年に比べて低く、西側で高くなるラニーニャ現象は4回発生しており、うち1回(2010年)は猛暑日数と死亡者数の増加が見られた。これらの結果から、関東地方の猛暑日数の増加には、ラニーニャ現象より正のインド洋ダイポールモード現象の影響が強いことがうかがえる。
研究グループの森岡優志研究員は「熱中症の死亡者数と気候変動の関連はこれまで、あまり調べられていなかった。地球温暖化が進んだ場合、気候変動に伴う気温の上昇が重なって、猛暑日が極端に増えることが予想される。熱中症による死亡者数を減らすには、猛暑日に関する情報がもっと必要になる。熱帯域海洋の気候変動現象を正確に予測して、猛暑日の長期予測の精度を上げることが求められる」と指摘している。
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