日本原子力研究開発機構(原子力機構)は、南フランスのカダラッシュに建設中の国際熱核融合実験炉ITER(イーター)の主要機器の一つである電磁石(中心ソレノイド、高さ約16m、直径4.3m)で用いる高性能超伝導導体(導体)49本のうち最初の5本を完成させた。北九州港から6月25日、中心ソレノイドの製作を担当する米国への輸送を始めた。
この超伝導導体の製作に当たっては、「繰り返し電磁力」に対する性能劣化を回避するための手法で課題を克服し、高性能化した導体の量産にこぎ着けた。国際合意された製作分担に基づくITER用の機器が日本から海外に渡るのは今回が初めて。日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インドが参加する国際共同プロジェクトのITER建設に日本が貢献する重要な節目となった。
ITERの中心ソレノイドを構成する導体は20年間にわたるパルス運転で6万回の繰り返し電磁力を受けるが、従来のサンプルを用いた試験では、この繰り返し電磁力に対して徐々に性能が低下する問題が2010年にわかった。この性能低下の原因は、ステンレス製の金属管内で一部の超伝導素線が変形することを、原子力機構が突き止め、ITER機構と協力して、超伝導素線や銅線をより合わせるピッチを短くして、超伝導素線が変形しにくいように改良した。
2012年に超伝導導体サンプルを製作して性能を試験した結果、繰り返し電磁力に対して性能低下は見られず、高性能導体の開発に成功した。原子力機構は、導体製作の全工程を一括受注できるメーカーはないため、メーカーが受注可能な製作範囲ごとに複数(元請けで6社)のメーカーと契約した。必要な製造設備を準備し、それらの技術を取りまとめて、導体の量産化を実現した。
完成した超伝導導体は15.6トンと10.4トンの2種類で、49本すべてが完成すると、計700トンにも上る。超伝導物質としてはニオブ3スズを使い、絶対温度18度以下に冷やすと、電気抵抗ゼロの超伝導になる。製作は2017年まで続き、製造工場に近い北九州港響灘から、中心ソレノイド組立工場のある米カリフォルニア州のロングビーチに貨物船で定期的に輸送される予定で、最終的にはフランスのITERに搬入されて据え付けられる。
原子力機構は「これだけの繰り返し電磁力に耐えて高い性能を維持する超伝導導体はこれまでなく、開発に苦労した。世界的に超伝導の高い技術力が日本のメーカーに蓄積されていたので、実現できた。中心ソレノイドの完成は、2020年のプラズマ実験開始を目標に進んでいるITER計画を前進させるものだ」と意義を強調している。
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